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「 140文字の物語 」
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『凪の後先』

今日も海は凪の時間になった。
心が落ち着かない。
凪はここにいない少女を思い起こさせる。
黒い瞳は最後の瞬間まで静まり返っていた。
凪の後先には万民の幸福が待っていたが、少女の姿はどこを探してもいない。
何故、手を離してしまったのだろうか。
最後の希望だったのに。
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『流星に願いを込めて』

幾晩、空を見上げればいいだろうか。
幾年、祈ればいいのだろうか。
手をぎゅっと握り締めて諦めない。
きっと君の微笑みを独り占めにできる。
たった一人の大切な君。
お揃いの指輪をするような関係になりたい。
そんな未来を流星に願いを込めて、今日も夜空を見上げる。
「iotuは、馬鹿みたいだと自分に呆れながら最後の嘘をつきました。
それは前へ進むための嘘でした。
「欲しい物のは手に入れたから、もういいんだ」、と。
こんなことしか言えないなんて。」

------

馬鹿みたいだと自分に呆れながら、これで最後だと嘘をついた。
未来のためについた嘘だった。
嘘をつかなければ前に進めない。
そんな自分に「欲しいものは手に入れたから、もういいんだ」と言い聞かせた。
こんなことしか言えないなんて、嘘で塗り固めてきた人生に後悔をする。
真実にしたい。
後宮も花街も大差ない。
そこには愛がなく、一夜の夢があるだけだ。
今日も格子越しに着飾った女たちが居並ぶ。
一銭でも高く売れるように、女たちは化粧をして、華やかな衣装を纏う。
見るからに貴族のお坊ちゃん風の青年が花街一高値の娘を指名する。
「私は高いわよ?」娘は妖艶な笑みを見せる。
漆黒の髪を持って生まれてきた。
貴族階級は明るい色の髪を持っている中で。
父は母の不貞を疑った。
領地から離れている間に、間男と睦みあったのではないかと母を責めた。
線の細い母は詰問に耐えきれずに、首を吊った。
それを見つけたのは私だった。
漆黒の髪は伝承通りに周囲を不幸にする。
水鏡にはこの国の未来がくっきりと映っていた。
それを読み解いて、国王陛下に伝えるのが私の役割だった。
その日も、水鏡を覗きこんだ。
すると水平なはずの水が荒々しく揺れ動く。
未来が分からなくなる。
今までそんなことはなかった。
不吉だった。
責任を取ってこの役割から外されるのだろうか。
モデルか芸能人か、勘違いされるあなた。
整った容姿に、優しい笑顔。
私にはもったいない人だ。
街で一緒に歩いていると女子たちがざわめく。
歩く女子たちの方がお似合いだ。
そして私は空気になる。
「どうしたの?」あなたが問う。
私は目を逸らしつつ、指先を両手で包む。
これぐらいいいよね。
「iotuは、大丈夫と自分に言い聞かせながら最後の嘘をつきました。
それは相手の笑顔のための嘘でした。
「寂しくなんてないよ。大丈夫」、と。
嘘だと言えたら、どんなに。 」

------

君にはいつでも笑っていてほしいから、嘘をついた。
これが最後の別れだと知っていた。
でも僕は大丈夫と自分に言い聞かせ、笑顔を浮かべる。
「寂しくなんてないよ。大丈夫」ずっと繋いでいた手を離す。
嘘だと言えたら、どんなに楽になるだろう。
それでも僕は嘘をつきとおす。
君の笑顔のために。
辺境も辺境だった。
国の片隅に、その領地はあった。
そこの伯爵から、婚姻を求められた。
成り上がりの男爵には断る実力はなかった。
貴族同士の政略結婚は珍しくはない。
平民から男爵に格上げをされた時に、覚悟をするように父から言われた。
華やかな王都にいるのに田舎に行くのは悔しい気分だ。
意見の違いで口論になってしまった。
不器用な沈黙が訪れてしまう。
こんな時間を過ごすために君と一緒にいるわけじゃない。
腹が立つが謝罪をしようと思った。
すると「ごめん」君がぎこちなく、手を差し出す。
僕も手を伸べると、君は指先を折れんばかりに握る。
絶対許す気がないことがわかった。
車で運ばれてきた林檎。
ちょっと見た目は悪いけど、味は絶品ということだった。
最悪ジャムにすればいいと思って引き受けた。
覚悟をしてダンボール箱を開けると、意外に色艶がある林檎たちが並んでいた。
兎にできないのが残念だったが剥いて硝子の容器に入れていく。
今日のデザート。
何回目のリストカットだろうか。
風呂場で手首にカミソリを当てる。
ぷつりと赤い滴が生まれる。
『生きている』と体感する。
ここから消えたくてリストカットをするのに、生を実感するのはこの時だ。
ふいに幼馴染の声が脳裏をよぎる。
『大切にもさせてくれないの?』
怒った声を心の中でなぞる。
宅飲みの帰り道。
君は千鳥足でフラフラと歩く。
足が足に絡んで倒れそうになった。
僕は慌てて手首をつかむ。
『家まで送っていく』と言って大正解だ。
僕の指が余るほど細い手首は脈打つのがわかるほどだった。
「ありがと」君は顔を上げた。
「急につかんで悪かった」僕は言った。
「助かったよ」
「お願いがあってきた」身なりのきちんとした人がやってきた。
嫌な予感しかしない。
話を聞くか悩む。
「これ何だが、毎夜悲鳴を上げる」と脇差しを出す。
予感は的中。
そっち関係の仕事の依頼らしい。
「さわったもいいですか?」諦めて、尋ねる。
頷くのを確認して手に取る。
長丁場になりそうだ。
君があまりにも寒いというので、僕は首を傾げる。
僕はぎこちなく、君の指を指先でなぞる。
「くすぐったいよ」君は笑う。
君の指は冷えていた。
僕のぬくもりが伝わればいいと君の手を握った。
「少しはあたたかくなった?」僕は尋ねる。
すると君は空いている手で胸を叩く。
「ここがあったまった」
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