先ほどから少女は手をこすり合わせている。
寒いのだろうか。
「手を繋ごうよ」と少年は遠回しに言った。
「誰があなたなんて」と少女は意地を張る。
少年は無理矢理、少女の指先を握る。
氷のように冷たかった。
「離してよ」と少女は言った。
その意地っ張りさが可愛くて、少年はぎゅっと握った。
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「iotuは、愚かだなと自分を笑いながら最後の嘘をつきました。
それは最初で最後の嘘でした。
「幸せなんて、どこにもないんだ」、と。
これが本音なら、楽だったのに。 」
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僕は、愚かだなと自分を笑いながら最後の嘘をついた。
それは最初で最後の嘘だった。
「幸せなんて、どこにもないんだ」と。
小さな幸せ探しをする君には残酷な言葉だっただろう。
これ以上、君が傷つくことに耐えられなかった。
これが本音なら、楽だったのに。
「あるよ」目に涙を湛えて君は言う。
「僕は笑顔の君が好きだ」と公衆の面前で言われた。
なんの罰ゲームなのでしょうか。
私は俯いてしまう。
「だから、もっと君の笑顔が見たい。君を泣かせたりはしないから付き合ってほしい」と男らしく言う。
それでも私には罰ゲームにしか思えなかった。
「ごめんなさい」と早口で言って逃げる。
彼に何も期待はしていなかった。
記念日とか、誕生日にはうとそうだったから。
おめでとう、と言ってもらえれば、それだけで満足だった。
そんな気持ちで迎えた誕生日。
やっぱり何もなかったな、と思っているとスマホが鳴った。
外に出ると白金色の指輪を持った彼がいた。
「遅れてごめん」と言う。
あなたが『わがままな女は嫌いだ』と言ってたからわがまま、を言わなかった。
あなたに好かれるために努力した。
それなのに、あなたは『一人でもやっていけるだろう?』というの?
『わがままな女は嫌い』だったんじゃないの?
私の胸が痛む。
泣きそうになりながら、自分の手のひらを握り締める。
「iotuは、愛を囁くように優しく最後の嘘をつきました。
それは相手を守るための嘘でした。
「すぐに追いつくから、先に行ってて」、と。
嘘だと見破ってくれたらいいのに。」
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僕は、愛を囁くように優しく最後の嘘をついた。
それは相手を守るための嘘だった。
「すぐに追いつくから、先に行ってて」と。
少女の手を離す。
「大丈夫だよ」と今までついてきた嘘のように微笑む。
少女は一度だけ振り返り、走り去った。
嘘だと見破ってくれたらいいのに。
一瞬だけ脳裏を過った。
着物のレンタル会社をはしごする。
あれこれと試着して、ようやく決まった。
正直疲れてしまったが顔には出さなかった。
「なんだ?」と青年は問う。
「祝われる私よりも、祝ってくれる貴方が嬉しそうだから」と少女は誤魔化した。
「一生に一度の成人式だ。当然だろう?」と青年は真面目に答えた。
わずかな間でも離れているのが寂しかった。
恋人同士の時は、もっと離れている時間は長かったのに。
次に会う約束が繋いでいてくれたのだろうか。
それとも歳を重ねたからだろうか。
君に会えない時間が苦しかった。
せっかく家族になったのに不満だった。
君もこの苦しみを耐えているのだろうか?
「あなたの腕時計になりたい」と女が言った。
そして、俺がしている腕時計の文字盤をなぞる。
「どこにでもついていけるでしょ?」と女は微笑む。
「風呂と寝る時は外すけど」と俺が言うと「それは残念ね」と女は欲望をあらわにする。
「私が見ていない間は託すわね」と女は腕時計にキスをした。
「iotuは、少しだけ震える声で最後の嘘をつきました。
それは最初で最後の嘘でした。
「君が幸せなら、幸せだよ」、と。
・・・うまく笑えたかな? 」
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僕は、少しだけ震える声で最後の嘘をついた。
それは最初で最後の嘘だった。
「君が幸せなら、幸せだよ」と。
・・・うまく笑えたかな?
本当は君と一緒に幸せになりたい。
君だけが幸せじゃ意味がない。
君と他の誰かが幸せになるのは論外だ。
けれどもそれを口にする資格は僕にはない。
だから笑む。
ジュエリーショップで、ペアリングを見る。
ショーケースの中の指輪はどれも自信をもって輝いていた。
今日は付き合って一年目の記念日。
恋人の証が欲しいと言われて店に入った。
けれども、君は店員が進める指輪に首を横に振るばかりだ。
結局、何も買わずに店を後にした。
「指輪よりも愛がいい」
霜柱を踏んだ。
本格的な冬の訪れだった。
長すぎた夏の反動だろうか。
冬らしい冬にためいきをついた。
暗い朝に白く濁って溶けた。
こんな寒いのなら、夏をもっと堪能すればよかった。
朝日が昇る前に、夜のような空を見上げて、電車に滑り乗る。
街はまだ静かで、揺れる電車の座席であくびをする。
何となく眠れなくて青年は階段を下りた。
台所の電気がついていることに不審に思った。
少女は目覚めるには早すぎる時間だ。
足音を忍ばせて台所に行くと髪を下したパジャマ姿の少女がいた。
「ちょうど良かったです」と少女はマグカップを差し出す。
青年はそれを見つめる。
湯気の立ったココアだ。
この夏はどこにいても暑い。
蝉時雨が暑さを増していくような気がした。
木陰を探して歩いているけれども、無駄なような気がする。
エアコンのある部屋は姉に占拠された。
だらだらと汗をかいて図書館に向かう。
図書館の広い机の上に課題を広げる。
隣に座った君が優しく、手のひらを指先でなぞる。
上手くいかないんじゃないか、と薄々と感じていた。
君は僕に依存しているくせに甘えることはなかった。
二人の未来は見えていた。
「君とは、幸せになれないから」と僕が言った。
君は大粒の涙を零した。
「だから、僕が幸せにしてあげるよ」と僕は続ける。
君はゆっくりと目を瞬かせた。
君の為だ。