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「 140文字の物語 」
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太陽圏からの脱出は悲願であった。
寿命を迎えた恒星は全てを灼熱の炎で飲みこもうとしていた。
生命が宿った奇跡の星も例外ではなかった。
選ばれた人々が宇宙船に搭乗していく姿は、残された者たちにとってはどんな思いを抱かせたのだろう。
音声の入っていない動画からは分からない。
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悲劇は流転する。
誰もが望んだハッピーエンドへと作り変えられる。
小説家の手によって。
災いは幸いになり、涙は笑顔になる。
誰かが歌を唄った。
それがエンドロールのように。
幕は少しずつ下がる。
アンコールの拍手と共に。
作り変えられた喜劇に誰もが納得した。
かくして、悲劇は息絶えた。
「iotuは、小さく笑って最後の嘘をつきました。
それは歩き出すための嘘でした。
「すぐに追いつくから、先に行ってて」、と。
こんな酷い嘘は、もう二度と吐けない。」

------

僕は、小さく笑って最後の嘘をついた。
それは歩き出すための嘘だった。
少なくとも、未来のための嘘だった。
ここで言わなければ、次の機会はないことは知っていた。
「すぐに追いつくから、先に行ってて」と。
君は不審に思いながら、先へと向かっていった。
こんな酷い嘘は、もう二度と吐けない。
自転車を押して、歩いた帰り道。
空は良く晴れ、少し早いが夕暮れが二人を照らしていた。
ランドセルを背負った子どもたちが先を競って、走り抜けていった。
「愛してる愛してる、愛していたかった」とあなたは声を落として言う。
この恋も終わりを迎えようとしている。
それが分かって切なかった。
遅刻をするわけにはいかない約束だった。
前日にアラームをセットした。
それはもう入念に。
淡い夢の中でベルが鳴る。
手探りでそれを止めた。
眠りの中に再び落ちていこうとしていた。
あたたかい毛布にくるまれて安寧の心地だった。
電話の音で目覚めた。
約束相手の名前が表示されていた。
寝坊だ。
新聞配達のバイクの音で目を覚ました。
意外にすっきりとした目覚めだったから、夜明けまでこうして起きてようか。
スニーカーを履いて、新聞を取りに行く。
空には丸い朧月夜。
月光を浴びて、その輪郭を辿ろうとする。
春らしい月の輪郭はあやふやで分からなくなる。
諦めて新聞を片手に家に戻る。
不測の事態に陥った。
こんな時こそ、平静でなければならない。
焦りは禁物だ。
だから、僕は満面の笑みを浮かべながら、手のひらを折れんばかりに握る。
指先がバラバラになろうとも、この拳を開くことはできない。
開いたら最後、泣き崩れてしまうだろう。
僕の笑顔を見て、伝えた人はホッとした。
「iotuは、少しだけ震える声で最後の嘘をつきました。
それは最初で最後の嘘でした。
「寂しくなんてないよ。大丈夫」、と。
頼むよ、ごまかされてください。」

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僕は、少しだけ震える声で最後の嘘をついた。
それは最初で最後の嘘だった。
今までずいぶんと正直に生きてきたのだと我ながら感心してしまう。
「寂しくなんてないよ。大丈夫」と。
君に向かって微笑んだ。
いつでも寂しがり屋な僕にとっての最後の嘘なのが、これ。
頼むよ、ごまかされてください。
人生には嘘やごまかしが必要だ。
杓子定規の道では疲れてしまう。
正論はいつだって人を傷つける。
正しいことが正義ではない。
たまには優しい偽りにくるまれていることが心を守る。
物わかりのいい笑顔で『大丈夫だよ』と告げることが、必要な場面がある。
正論ばかりでは傷だらけになってしまう。
今日も普通の一日が終わろうとしている。
暗いニュースをスマホで見ながら、いつも通りの道を歩く。
ニュースに巻きこまれないことに感謝しながら、何もなかった日常に少しの退屈感を覚える。
明日も同じ日が続く、と何の保証もないのに思いこむ。
星たちの囁きを聞きながら、アパートについた。
和やかな日々はいつまで続くのだろうか。
寝ぼけ眼の青年は枕元にある神剣・神楽を見つめる。
今日は律動してはいない。
血を求めて鳴き叫んではいない。
青年はそのことにホッとして、階段を下りてダイニングに向かう。
「おはようございます」朝食を用意していた少女が笑う。
この微笑みを守る。
「iotuは、痛みを堪えながら最後の嘘をつきました。
それはきっと必要じゃない嘘でした。
「幸せなんて、どこにもないんだ」、と。
本当の願いは、どうせ叶わないから。」

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僕は、痛みに堪えながら最後の嘘をついた。
それはきっと必要じゃない嘘だった。
少なくとも君にとっては。
「幸せなんて、どこにもないんだ」と。
僕は吐き捨てるように言った。
君には僕が幸せか、不幸せかは関係ないだろう。
僕には重要なことだったけれども。
本当の願いは、どうせ叶わないから。
「何回目の脱走?」と絹のフリルとレースがふんだんに使われたドレスをまとった少女が言った。
こちとら麻の飾り気のない衣をまとっていた。
また逃げ切ることができなかった。
首に紐をつけられて、少女の前に連れてこられた。
「いい加減思い知れば良いのに、あなたは私の奴隷なのよ」と笑った。
昨日は友だちに付き合って、長電話をしてしまった。
なかなか切るタイミングをつかめなくて、愚痴を聞き続けてしまった。
完全に寝不足だった。
それでも仕事は待ったなしだ。
布団にくるまっていたかったが、勇気を出して飛び起きる。
瞬間、体が傾いだ。
眩暈がして天と地が分からなくなった。
神剣・神楽は神刀というよりも、妖刀といったほうがいいような刀身だった。
波を打つ白刃は同胞殺しにふさわしい。
どんな思いで、巫女だった少女は青年に託すのだろうか。
人が好いので引き受けてしまったが、苦労には絶えない。
神剣・神楽のすらりとした抜き身が美しいほど、不吉な感じがした。
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