僕はソファの上で寝っ転がっていた。
微かに揺れるカーテンが気持ちの良い風を運んできてくれた。
僕は現実と夢の世界を行ったり来たりしていた。
すると、君が静かな足音を立ててやってきた。
ソファと僕の隙間にちょこんと座ったようだった。
君はぎこちなく、僕の両手のひらを触れ合わせる。
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「iotuは、無理に笑顔を作って最後の嘘をつきました。
それは傷をいやすための嘘でした。
「欲しい物のは手に入れたから、もういいんだ」、と。
本音は仕舞い込んだまま。」
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僕は、無理に笑顔を作って最後の嘘をついた。
作り笑いも、嘘もこれが最後だ。
それは傷をいやすための嘘だった。
ぼろきれのようになった心を繕う。
「欲しい物は手ににいれたから、もういいんだ」と。
君に向かって言葉を紡ぐ。
本音は仕舞い込んだまま。
僕にはそれでいい。
君は知らなくていい。
独りではできない。
孤独の海に溺れてしまう。
もがけばもがくほど、足をとられ、沈んでいく。
そんな僕の人生にも、花が咲く。
幸いという言葉が浮かび上がってくる。
君とだから、できる。
溺れかけている僕に手を差し伸べてくれる君。
『二人だったら、どんなこともできる』そう思わせてくれる。
仄かに染まった花々を見て、ためいきが零れた。
いったい何日、会っていないのだろうか。
いったい何日、声を聴いていないだろうか。
会いたい、と強く思った。
デートなんて大それたものでなくてもいい。
ただ一緒にいたいと強く思った。
不自由な生活になったものだと手洗いしてからマスクをする。
二度とこの手を離してはいけない。
それが分かったから力強く、君の指先を握る。
僕よりも少し冷たい指先をあたためるように。
君は驚いたように、目を丸くする。
それから花が綻ぶように微笑んで、僕の手を握り返した。
たったそれだけのことなのに、僕の心は幸せでいっぱいになった。
僕も笑む。
3月の雪は根雪のようで帰る人を阻んでいる。
近況を知らせる手紙をしたためる。
何枚目の便箋だろう。
それだけ会っていないことを知らせるようで、窓の外に降る雪を眺める。
故郷には桜が咲いたという。
君の声が聴きたい。
「iotuは、どうしようもなく泣きたい気分で最後の嘘をつきました。
それは前へ進むための嘘でした。
「君を、信じきることができなくてごめん」、と。
こんなことしか言えないなんて。」
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僕は、どうしようもなく泣きたい気分で最後の嘘をついた。
うつむいたら、涙が零れてしまう。
それは前へ進むための嘘だった。
「君を、信じきることができなくてごめん」と。
君と最後の別れなのに、こんなことしか言えないなんて。
本当に未来に向かって、僕は歩き出すことができるのだろうか。
小指と小指に結ばれていた赤い糸。
見つけた時は運命だと思った。
永遠になると思っていた。
けれども、別れはあっけなかった。
絡んだ糸は解けてしまった。
今日から君と僕は赤の他人。
運命の人ではなかったのだ。
僕は小指を見つめて、確かにあった赤い糸を思い返す。
幻ではなかったはずなのに。
「髪の毛、縛っちゃっていいですか?」少女が尋ねた。
惰性での伸ばしている中途半端な長さの髪は邪魔だろう。
「好きにしていいよ」と青年は答えた。
少女はご丁寧にブラシで髪を梳いてから、ヘアゴムで髪の毛を縛った。
誰かに髪をさわられるのは、心地よいと思った。
殺伐とした世界にいるから。
「ご苦労さまでした」とビルを出る時に、警備員に言った。
ごく普通の挨拶だろう。
それなのに警備員は涙を流す。
失礼なことを言ってしまっただろうか。
私があわてていると、警備員はより深くお辞儀をした。
「挨拶、ありがとうございました。お気をつけて」と警備員は涙を手の甲で拭って言った。
君は満面の笑みを浮かべながら、僕の指先に爪を立てる。
ずっと君が楽しみにしていた旅行で、あくびなんかした僕が悪いんだけど。
でも一つぐらい言い訳をさせてほしい。
この連休をとるために、終電で帰るぐらいの残業をしたんだ。
君がとても楽しそうにしていたから、睡眠不足でも頑張ったんだ。
「iotuは、ぎゅっと手を握り締めながら最後の嘘をつきました。
それは自分が傷つくだけの嘘でした。
「君の記憶から消し去ってくれていいよ」、と。
本当の願いは、どうせ叶わないから。」
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僕は、ぎゅっと手を握り締めながら最後の嘘をついた。
今までたくさんの嘘をついてきたけれども、これで最後にする。
それは自分が傷つくだけの嘘だった。
「君の記憶から消し去ってくれていいよ」と。
声が震えないように君に告げた。
本当の願いは、どうせ叶わないから。
それならば嘘で固める。
「ねぇ、もしI love youを訳しなさいって言われたら、どうする?」君は楽しそうに僕に尋ねる。
月がない夜だったから、かの有名な文豪の言葉を引用できない。
自分自身の言葉で言わなければならない。
「君とずっと一緒にいたい」僕はストレートな言葉で言った。
正解だったらしい。
君は微笑む。
カーテンが風を孕んで、まるで妊娠したかのように膨らんだ。
それを見て、窓を開けっぱなしにしていたことに気がつく。
カーテンを引き、窓を閉める。
単純な作業だったけれども、昔はできなかった。
大きく広がったカーテンが幽霊や妖怪がいるように見えたからだ。
母を呼んで閉めてもらっていた。
青年は寝癖をつけたまま、少女から封を受け取った。
決まりきった、同胞からの死の円舞曲のお誘いだった。
神剣・神楽を手にしている青年は責任を果たすだけだ。
少女は不安そうに青年を見上げる。
青年はその頭を優しく撫でる。
「行ってくるよ」と青年は生と死の狭間に飛びこむ。
断ち切るように。