青年は部屋の片隅で、神剣・神楽と向き合う。
同胞殺しの妖刀は、微かに律動していた。
まるで血に飢えているかのように。
首を落とさなければ殺せない同胞のように、青年もまた首を落とさなければ死なない。
いつの間にか体が作り替わってしまった。
少女を守れればそれでいい、と青年は決意した。
PR
湯船につかなりながら、自分の世界はなんと小さいものだろうかと思う。
目に見えるものが全てで、それ以外は世界の外、つまり境界の外だった。
それはハレであった。
そうやってくくってしまうことに、ハッとする。
いつでも世界は広く持ちたいものだ。
箱に詰めて大切にしても意味をもたない。
謎解きは得意だった。
どんなロジックも看破できた。
そんな俺を見て幼馴染はスマホにロックをかけた。
覗かれないように、気にしてのことだろう。
どんなパスワードも俺の前では児戯に等しい。
置き去りになっていたスマホを手に取る。
俺の誕生日を入力してみた。
音楽が鳴り開錠された。
------
流れた音楽はエルガーの『愛の挨拶』のオルゴール。
俺は赤面してしまった。
こんなにも分かりやすい愛情表現はあるのだろうか。
スマホのロックを開錠したことを後悔した。
このことが幼馴染にバレてたら、どんな顔をするのだろう。
「お待たせ」と幼馴染は化粧室から戻ってきた。
そして赤面した。
「iotuは、冷静であるよう心がけつつ最後の嘘をつきました。
それは現実逃避のための嘘でした。
「永遠を信じている」、と。
こんなことしか言えないなんて。」
------
僕は、冷静であるよう心がけつつ最後の嘘をついた。
それは現実逃避のための嘘だった。
君に告げる最後の嘘だった。
僕ができる最後の祈りだった。
「永遠を信じている」と。
僕は慰めにもならないことを口にした。
別れの場面でも、君に対してこんなことしか言えないなんて。
僕は情けなさすぎる。
家に帰ってきたら、珍しくテレビがつけられていた。
珍しいこともあるものだ、と私は思った。
居間で姉は食い入るようにテレビを観ていた。
「ただいま」と私は声をかけた。
姉はびっくりしたように振り返る。
「いつの間に帰ってきたの?」姉が尋ねる。
「ついさっき」と私は答える。
姉の隣に座る。
水につけると占い結果が出るおみくじを引いた。
おっかなびっくりと水面におみくじを浮かべる。
じわじわと文字が現れる。
そして、その文字を見てハッとする。
日本語だけではなく、英語も書いてあった。
水面からおみくじを引き上げる。
破れないように気を使いながら。
おみくじの結果は吉だった。
季節は移り替わり、最も苛烈で、最も華やかな時がやってきた。
花々は鮮やかな色を添え、雲はどこまでも高く。
帰り道にコンビニに寄ってアイスを買うと、すぐにでも溶け始める。
君は堂々と、僕の両手のひらを指先でつつく。
「そっちも、ちょうだい」と君は無邪気にアイスのおねだりをする。
「iotuは、どうしようもなく泣きたい気分で最後の嘘をつきました。
それは現実逃避のための嘘でした。
「君が居なくても何も変わらないさ」、と。
いっそ笑い飛ばしておくれよ。」
------
僕は、どうしようもなく泣きたい気分で最後の嘘をついた。
こんな悲しい嘘は最後でいい。
それは現実逃避のための嘘だった。
「君が居なくても何も変わらないさ」と。
ただの強がりだ。
僕の地球は、君という太陽を中心に回っているというのに、でたらめな嘘だった。
いっそ笑い飛ばしておくれよ。
のんびりとお昼ご飯を食べていたら、お父さんが貧乏ゆすりを始めた。
いらだった証拠だった。
私はできるだけ早くご飯を食べようとする。
けれども、お母さんが「よく噛んで食べなさい」と言う。
二つの狭間に挟まれて、私はどうしていいのか分からなくなってしまった。
箸が止まってしまった。
その佳人は妖艶だった。
見つめられただけで、骨の髄まで蕩かせるような色香があった。
それゆえの罰を受ける。
官吏は悩む。
美しく生まれたのは、はたして罪なのだろうか。
美貌で天子を惑わせたのは、彼女自身の罪なのだろうか。
政をおろそかにした天子の方が罰を受けるべきなのではないのか。
遅いランチがてらにカフェに来た。
平日の昼間だというのに、座席は埋まっていた。
それだけ美味しいお店なのだろう。
僕はメニューを見ながら、そんなことを考えていた。
君は遠慮がちに「手を繋いでいい?」と恥ずかしそうに言った。
僕は君の両手を軽く握った。
君は「ありがとう」とつぶやいた。
「iotuは、少しだけ震える声で最後の嘘をつきました。
それは相手を守るための嘘でした。
「永遠を信じている」、と。
・・・まだ、泣いちゃだめだ。」
------
僕は、少しだけ震える声で最後の嘘をついた。
それは相手を守るための嘘だった。
「永遠を信じている」と。
万物は流転する。
変わらないものなど一つもない。
こうして君と過ごしている時間も永遠などではないのだ。
それでも君のために嘘をついた。
・・・まだ、泣いちゃだめだ。
君が笑うまでは。
君は僕のことを理解してくれる、この世でただ一人だけの人。
僕はどんな思いで、行動したのか、分かってくれる人。
僕がどんな気持ちで、言葉を発したのか、分かってくれる人。
そんな貴重な相手がすぐ傍にいるなんて、僕はどんなに幸せだろう。
だから、僕は君のことを宝物ように大切にするよ。
君は僕の運命の相手。
小指と子指が赤い糸が繋がっている相手。
ずっと探していた。
ずっと焦がれていた。
そんな君を見つけ、僕は幸福に酔っていた。
二度と離さないよ。
どんなに逆風が強くても、どんなに外野がうるさくても。
君は僕の半分なのだから。
ようやく巡り会えた永遠の相手なんだから。
湯船に浸かりながら、今日あったことを反芻する。
今日はむかつく相手をコンクリートの壁に追い詰めることができた。
涙ながら助けを求める奴の姿は間抜けで、スカッとした。
これで、もう俺には逆らわないだろう。
そう思うと嘲る笑みが浮かんだ。
明日の学校が楽しみだった。
どんな態度だろうか。