逆十字のピアスをしている青年が挨拶代わりに、剣を振るった。
浮かぶ表情は嘲笑。
神剣・神楽を抜刀する。
それと同時に、結界を展開する。
これで、どれだけ血まみれになっても、驚く通行人はいなくなるだろう。
血飛沫で逆十字のピアスをしている青年が霞む。
どれだけ血を流せば終わるのだろう。
幼馴染と同じ高校に受かった。
学校まで続く桜並木を歩きながら、また三年一緒にいられることを噛みしめていた。
「緊張してきた」幼馴染が言った。
「腕を貸そうか?」いつものやりとりだったはずだ。
それなのに幼馴染は恥ずかしそうに、俯いて僕の腕をぎゅっと握る。
震えが微かに伝わってきた。
虹の橋が架かっていたから、それを滑り台がわりに地上に降りたよ。
こっちは雨が降っていないんだね。
帰りはどうしようか。
たんぽぽの綿毛につかまって、風に乗って飛んでいこうか。
花が綺麗な季節だから、地上もいいものだね。
特にお気に入りなのは『ソメイヨシノ』と呼ばれる桜だよ。
白くて綺麗だ。
「iotuは、夢を見るような気持ちで最後の嘘をつきました。
それは前へ進むための嘘でした。
「君にもらったものは全部返す」、と。
もう、覚悟は決めたんだ。」
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僕は、夢を見るような気持ちで最後の嘘をついた。
それは前へ進むための嘘だった。
「君からもらったものは全部返す」と。
優しさも、ぬくもりも、愛情も。
それらは僕を縛りつけて、振り返りたくなってしまうから。
もう、覚悟は決めたんだ。
君は「分かった」と少し寂し気な笑顔を僕に見せた。
どこにでも行ける鍵を手に入れた。
子供時代の終わりを告げる儀式だった。
これからは、どんなことであっても自分の責任になる。
それを象徴するようなアンティークな鍵だった。
一つ歳をとっただけで昨日の自分と違いは分からなかった。
けれども、もう守られるだけの子供ではないことは分かった。
足を鎖でつながれて、監視カメラが24時間モニタリングしている。
窓には鉄の格子がはめられていて、部屋の鍵は外からしか開かない。
逃げようとしても、逃げられない状況にあった。
それはすべて私を守るためだという。
小さな窓から月光が差しこんできた。
背中から透明な羽が静かに開き始める。
肝試し、というわけじゃないけれど、近所の寺まで歩くことになった。
こじんまりとした寺は明かりもなく、どこか異界にさまよいこんだような気持ちになった。
一緒に歩いていた君が立ち止まる。
「帰ろうよ」と言った君の声は震えていた。
仕方なく、君の指を両手で包む。
「大丈夫」と僕は微笑む。
「iotuは、無理に笑顔を作って最後の嘘をつきました。
それは前へ進むための嘘でした。
「まだ一人で生きていける」、と。
だってもう、仕方がないだろう?」
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僕は、無理に笑顔を作って最後の嘘をついた。
それは前へ進むための嘘だった。
君には少し残酷かもしれない。
今まで二人で手を繋いで道を歩んできたのだから。
「まだ一人で生きていける」と。
だってもう、仕方がないだろう?
そんな言葉でも言わなければ共依存で負のループしてしまうのだから。
「ねぇ、好きだって知ってた?」と唐突に少女が言った。
それに少年は驚いて、飲んでいた炭酸飲料を吹き出すところだった。
これはいわゆる恋の告白なのだろうか。
だがしかし、突然すぎる。
「何が?」平静を保つように少年は尋ね返した。
「私が今の季節が一番、好きだってこと」と少女は言った。
青年は「お腹空いたな」と独り言を口にした。
「簡単なものなら作れますが?」独り言に返事が返ってきた。
声の方向を見るとエプロン姿の少女がいた。
そうだった。
家族を喪った代償のように、少女が神剣・神楽と共にやってきたのだ。
「お願いできるかな?」と言うと少女は嬉しそうに微笑んだ。
「iotuは、まるでいつも通りに最後の嘘をつきました。
それは自分の幸せのための嘘でした。
「まだ一人で生きていける」、と。
いっそ笑い飛ばしておくれよ。」
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僕は、まるでいつも通りに最後の嘘をついた。
自然に、君が気づかないように。
それは自分の幸せのための嘘だった。
このままだったら二人そろって駄目になる。
それが分かったから「まだ一人で生きていける」と。
何とも情けなく、貧弱な嘘だろう。
君よ、そんな言葉をいっそ笑い飛ばしておくれよ。
「ゆめみたいなんてゆめみたい」と親友が謎かけのように言った。
「何かあったの?」私はかったるく思いながら尋ねた。
「好きな人がいるって、この前言ったよね」親友は言った。
私には言葉の続きが分かったけれども、我慢強く待った。
「両想いだったの。ゆめみたいでしょ」と嬉しそうに言った。
廊下で白金色の頭髪の少年とすれ違った。
たったそれだけなのに、胸の中にもやもやが生まれた。
少女はつい睨んでしまった。
少年は作り物じみた笑顔を見せた。
その余裕さに少女の対抗心はいっぱいになる。
今度こそ、少年を悔しがらせてやる。
少女は苛立ちながら思った。
次に一位になるのは自分。
僕は鈍感だから、繊細な君の気持ちが分からない。
君は外に出て、草花の手入れに没頭する。
普段なら日焼けするのが嫌だから、と陽が落ちる頃にやるのに真昼間からしている。
どうやら僕は君の機嫌を損ねてしまったようだ。
分かるのはそれだけ。
君にどんな言葉をかければいいのかすら分からない。