起きてカーテンを開く。
窓ガラスが濡れていた。
外は快晴が広がっているというのに、不思議だった。
夜中に雨が降ったのだろうか。
それなら片頭痛が起きても不思議ではなかったけれども、スッキリとした目覚めだった。
窓についた水滴を窓ガラス越しになぞる。
ひんやりとした感覚が伝わってきた。
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陽光が眩い季節になった。
幼馴染がサングラスをかける季節になったということだった。
度の入ったサングラスをかけた幼馴染は私から遠ざかるようだった。
そういうつもりでかけているわけではないことは知っているけれど。
だから室内でサングラスを外した時に見られるアメジスト色の瞳が愛しい。
嫌々ながらも、嫁いできてくれた花嫁に感謝しなければならない。
二人は宴会会場から追い出されて、吉祥図案が刺繍された部屋に通された。
花嫁にかかっていたベールを花婿は取る。
美しい娘だった。
花婿は見惚れた。
娘は花婿の指先を折れんばかりに握る。
初夜の緊張が伝わってくるようだった。
菫色の瞳が印象的なドール。
唇は紅くチェリーを思い起こさせた。
ずっと僕を待っていたかのように、菫色の瞳が僕を見つめる。
お人形さん遊びをするような歳でもないのに、心惹かれた。
気がつけばショーウィンドウにふれていた。
ドールの手を取るかのように。
運命だと思って店に入る。
「iotuは、ひどくためらいながら最後の嘘をつきました。
それはきっと必要じゃない嘘でした。
「世界は希望で溢れている」、と。
嘘だと言えたら、どんなに。」
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僕は、ひどくためらいながら最後の嘘をついた。
それはきっと必要じゃない嘘だった。
最後にするには陳腐で、滑稽な嘘。
それを君に告げるのは、枷をはめるようなものだった。
「世界は希望で溢れている」と。
絶望した色の瞳が僕を見据える。
嘘だと言えたら、どんなに。
僕と君は救われるだろう。
海に沈めたあの日の思いは、真珠になっただろうか。
サヨウナラと言ったけれども、涙を見せることはなかった。
そんな可愛げのない女だった。
あの日、飲みこんだ涙は海の底で真珠になったのだろうか。
それは誰にも分からない。
貴方にも、私にも。
真珠になって、いつか誰かの飾りになってほしい。
出会いもあれば、別れもある。
それが春という季節を象徴していて、なかなか慣れることができなかった。
カーテンからもれる日差しに頭痛を覚えた。
胃もなんだか重く、気持ち悪い。
理由は簡単だ。
送別会で呑みすぎたのだ。
一番親しくしてくれた先輩の移動だったから、栄転とはいえ辛かったのだ。
少女は波打ち際を裸足で歩く。
青年はそれを眺めながら、海水は冷たくないのだろうか、と思っていた。
枝を拾った少女は砂浜に文字を書く。
波に消えるだろう儚い遊戯だ。
小走りで少女は走ってきて、青年の腕をつかむ。
砂浜には文字が残っていた。『好き』と。
心を盗むには充分な言葉だった。
いたずら心が湧きだした。
暗い映画館の中、少し退屈な映画を並んで見ていた。
肘置きに置かれた大きな手。
そっと、指を握り締める。
ぬくもりが伝わってきて、ほんのりと安堵してしまった。
映画を観ていたはずの瞳と出会う。
指がほどかれて、残念だと思っていたら、大きな手が握り締めてきた。
「iotuは、痛みを堪えながら最後の嘘をつきました。
それはきっと必要じゃない嘘でした。
「ずっと君と一緒だよ」、と。
君は何も知らないままでいて。」
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僕は、痛みに堪えながら最後の嘘をついた。
それはきっと必要じゃない嘘だった。
「ずっと君と一緒だよ」と。そんな嘘をついた。
ずっと一緒にいられるわけがないことは分かっていた。
永遠なんて紙切れよりも軽く、永久なんて羽よりも軽い。
それでもと願ってしまう。
君は何も知らないままでいて。
どうすればこの想いを完璧に伝えることができるのだろう。
貴方がどんなことをしていても、貴方がどんな言葉を投げつけてきても。
貴方の全てが愛おしいの。
貴方が貴方であるということだけで、私の心臓は高鳴るの。
そして『愛している、愛している』と告げるの。
だから貴方は貴方のままでいて。
『彼氏が浮気をしているんじゃないか』と共通の友人から教えられた。
心の中で、教えてくれた友人に感謝した。
私は悲しい顔を作り「そう」と小さく呟いた。
「まだ決まったわけじゃないし。気を落とさないで」友人は優しく慰めてくれた。
今の彼氏に飽きてきたところだったからラッキーだった。
どれだけ姿が変わっても、どれだけ声が変わっていても、君に出会った瞬間、魂が揺れた。
君と過去世で出会っている。
そんな確信があった。
過去世でも君に惹かれた。
今世でも愛しあう関係になるのだろうか。
時計の針は確実に進む。
今を君も僕も生きている。
過去世で惹かれあっても現実は違う。
君と口喧嘩した。
その日は謝らないまま、お互いの家に帰った。
しかし学校というのは罪作りだ。
嫌でも顔を合わせることになる。
クラスメイト達が探ってくるのも不快だった。
廊下に出ると君とすれ違う。
「ごめん」と僕は謝る。
君はさりげなく、指先を折れんばかりに握る。
まだ怒っているようだ。
「iotuは、震えないよう祈りながら最後の嘘をつきました。
それは自分が楽になるための嘘でした。
「今とても幸せだよ」、と。
頼むよ、ごまかされてください。」
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僕は、震えないように祈りながら最後の嘘をついた。
それは自分が楽になるための嘘だった。
「今とても幸せだよ」と。
これからやってくる不幸せに僕は耐えられるだろうか。
一瞬の幸せが遠ざかっていくことだけは分かった。
頼むよ、ごまかされてください。
この先も僕らは幸せでいると。
祈るから。