どこまでも透明で、曇ることのがなく、繊細で、簡単に割れてしまう。
そんな片想いをした。
まるで硝子のような片想いだ。
一方的な片想いはたやすく熱を持ち、ふれると熱い。
冷めるまで待つしかない、と思いこんでいた。
伝えることなど考えたことはなかった。
心が透明になっていく片想いだった。
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何度も、私はお姉ちゃんと違う、と言い続けていた。
お姉ちゃんのように、綺麗で、優秀で、優しくはない。
なのにお母さんは、お姉ちゃんにできたのだから、私にもできると思っている。
それは強固で、ちっとも揺らがない思いこみだ。
私とお姉ちゃんは別だと解って欲しいと何度、思っただろう。
街灯のないような暗闇の中を歩き続けていた。
帰る場所は安寧の場所ではなくなってしまった。
それを思い出して、涙を滲ませる。
泣くもんか、と空を仰ぐ。
僕の気持ちを知らない月が輝いていた。
それがあまりにも美しかったから、僕の頬を水滴が伝う。
素直に家に戻ろう、と思えることができた。
結婚旅行に来たのはいいものの、新妻はふらりと姿を消す。
慌てて探すと、スマホを片手に風景を撮っている。
インドア派の新妻にとって、この旅行は刺激的なのだろう。
あるいは記念的なのかもしれない。
だからといって、ふらふらとされるのは困る。
僕は無理矢理、楽しそうな新妻の指先を握る。
「iotuは、冷静であるよう心がけつつ最後の嘘をつきました。
それはたぶん最低の嘘でした。
「世界は希望で溢れている」、と。
・・・泣いたりしないよ。」
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僕は、冷静であるよう心がけつつ最後の嘘をついた。
それはたぶん最低の嘘だった。
傷ついている君に対して言うべき台詞じゃなかった。
「世界は希望で溢れている」と。
君の瞳に溜まった涙が頬を伝う。
君は静かに泣いた。
僕までつられそうになる。
二人で不幸せごっこだ。
・・・泣いたりしないよ。
君が僕を想ってくれないのなら僕は一生、恋をしない。
恋というのは非生産的なものだ。
どれだけ想っていても、叶うとは限らない。
痛みと苦しみをお供に連れてやってくる。
辛いだけの恋なら僕は一生、君に恋をしない。
なんという二律背反。
すでに僕は君に恋をしているというのに、消しきれない。
しっとりしたガトーショコラ。
それに合わせるようにアールグレイの紅茶を淹れる。
久しぶりの休日の目覚めは、スッキリとしたものだった。
洗濯機を回しながら、チョコケーキをいただく。
奮発した甲斐があって、どっしりとした触感が美味しかった。
あっという前にケーキを食べ切ってしまった。
悪い言葉を使えば、そのまま言葉は返ってくる。
それが言霊なのだ。
だからできるだけ悪い言葉を使わないようにしていた。
そんな日々の中で捨て猫を拾った。
自分自身の分身のような気がしたからだ。
雨に撃たれる心が自然に動いたからだ。
言いようのない寂しさを抱えた一人と一匹。
雨は止まない。
君は満面の笑みを浮かべながら、僕の両手を折れんばかり握る。
どうやら怒っているようだった。
物理的に感じる痛みよりも、笑顔の下にある心に痛みを感じた。
僕はほとほと困ってしまった。
君にどんな言葉を投げかければいいのだろうか。
どんな言葉だったら君に受け止めてもらえるのだろうか。
「iotuは、大丈夫と自分に言い聞かせながら最後の嘘をつきました。
それは相手の幸福を祈る嘘でした。
「君が幸せなら、幸せだよ」、と。
・・・うまく笑えたかな?」
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僕は、大丈夫と自分に言い聞かせながら最後の嘘をついた。
それは相手の幸福を祈る嘘だった。
「君が幸せなら、幸せだよ」と。
君には幸福になってほしい。
それは嘘じゃない。
けれども、僕以外の誰かと幸福になってはほしくない。
それは僕のわがままだと気づいている。
・・・うまく笑えたかな?
例えばカマキリのように、例えばクモのように。
自分が死ぬと分かっていて求愛をすれば、君は信じてくれただろうか。
命がけの愛情表現をするほど、僕には度胸はなかった。
君を愛しているけれど、命を失ってもいいとは思えなかった。
君と一緒に恋愛をしたいのだ。
だけど、それでは君は足りない。
胸元が大きく開いたドレスに、豪奢な羽のついた仮面をまとって娘たちは集う。
仮面舞踏会の始まりだった。
一夜の恋を求めて、紳士淑女たちはダンスをする。
仮初の愛の言葉を口にして、泡沫のダンスを踊る。
手を離した瞬間に忘れるような儚さの中、紳士熟女たちは熱のこもった瞳で見つめあう。
ロケットペンダントを貰ったのは慈悲だったのかもしれない。
写真一枚もない亡き母の肖像画が入っている。
若くして亡くなった母は、祖母にとってご自慢の娘だった。
だからこそ、私を引き取ってくれて育ててくれた。
大人になって祖母には人形遊びの延長線上だ、と理解して打ちのめされる。
少女がお風呂掃除をしている時だった。
後は泡を流すだけ、というところで青年がやってきた。
「どうかしましたか?」少女が問いかける。
青年はそっと、少女の手のひらに触れる。
「泡がつきますよ」と少女が言うと「小さな手だな」と青年は呟いた。
少女よりも大きな手のひらも泡だらけになる。
「iotuは、特別に優しい声で最後の嘘をつきました。
それは前へ進むための嘘でした。
「これ以上関わらないでくれ」、と。
頼むよ、ごまかされてください。」
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僕は、特別に優しい声で最後の嘘をついた。
それは前を進むための嘘だった。
「これ以上関わらないでくれ」と。
君が傷つかないように、これ以上背負うものがないように優しい声で告げた。
それでも、君の瞳は大きく見開かれる。
頼むよ、ごまかされてください。
君に対して、最後の嘘にするからさ。