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「 140文字の物語 」
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君が『海を見たい』と言ったから、来た海。
海水浴の時期ではないから、閑散としていた。
君は裸足になって、波打ち際を歩いていく。
僕はそれをぼんやりと眺めていた。
寄せては返す波音が子守唄のようだ。
立ち止まっている僕に、君は無理矢理、指先を触れ合わせる。
水滴のついた指は冷たかった。
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小さな頃から、ぞうが大好きだった。
春風が頬をなでていく季節に、動物園に行こうと誘った。
その時、君は和服で『歩きづらいから』と断られた。
どうせ、君は僕のことなんて好きじゃないんだ。
そう思いこんでいた。
季節は一つ進む。
スニーカーを履いた君が『動物園に行こう』と笑う。
「iotuは、無意識に緊張しながら最後の嘘をつきました。
それはたぶん最低の嘘でした。
「くだらない毎日なんて、消えてしまえ」、と。
もう、覚悟は決めたんだ。」

------

僕は、無意識に緊張しながら最後の嘘をついた。
声が震えそうになる。
それはたぶん最低の嘘だった。
「君と過ごした、くだらない毎日なんて、消えてしまえ」と。
僕は言い放った。
もう、覚悟は決めたんだ。
どれだけ君に嫌われても、夢に続く道を真っ直ぐ進むと。
絶対に振り返らないと決めたんだ。
あなたとの婚約解消には未練があった。
蒼白い顔がより病的に白くなった。
「そうですか」とあなたは物分かりの良い返事をした。
少しは寂しいと思ってくれてもいいのに、と僕は思った。
あなたにはそれだけのことなのだろう。
僕には重大なことなのに、あなたにとってはよくあることなのだろう。
早朝、目覚めると薬指の指輪がなかった。
寝ぼけ眼で大切な指輪を探す。
昨夜はしていた。それがなくなるなんて不自然だった。
私の思考が引っかかる。
隣で寝ていた、いや正確には狸寝入りをしていた夫を起こす。
「指輪、隠したでしょ」と私が言うと「罰があったんだよ」と夫はさらりと言った。
「僕は君に会えて嬉しいよ」と満面の笑みを浮かべながら、君の両手を両手で包む。
「別に私はそんなこと思っていないわよ。運命なんて馬鹿らしい」と君はいつものように言う。
君はいわゆるツンデレだってことを僕は知っている。
ちょっと素直になれない君のことが大好きだ。
僕は笑みを深くする。
「iotuは、特別に優しい声で最後の嘘をつきました。
それは切望のような嘘でした。
「世界で一番、大嫌い」、と。
決めたはずの覚悟が、揺れそうだな。」

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僕は、特別に優しい声で最後の嘘をついた。
泣きたいぐらいに望んだ嘘だった。
それは切望のような嘘だった。
こんな嘘をつくのは心が痛かった。
「世界で一番、大嫌い」と。君に向かって言った。
これでおしまいにするための嘘だった。
君の瞳が僕を見つめる。
決めたはずの覚悟が、揺れそうだな。
優しい彼の一番になれたら、どんなに快感だろう。
他人に優しい彼は、今日も私を後回し。
ずっと一緒だったから、悔しいけどすぐにかまう必要がないと思っているのだろう。
私が彼が戻ってくるのを待っていることに慣れているせいの可能性も。
たまには一番にしてくれてもいいじゃないか、と思う。
狂気のような新緑の季節がやってきた。
僕は抵抗する。まだ季節が移ろいゆくのは早すぎると。
薄紅色の花をまだ散らさないでくれ、と願う。
けれども時の流れというのは残酷だ。
どれだけ祈っても、季節は一つ進む。
けたたましい新緑が笑う季節になった。
花が咲いていた枝にも葉が芽吹いていた。
飴色の昼下がり。
君と二人、ソファの上に腰かけていた。
僕はさりげなく、君の両手を両手で包んだ。
君の両手は働き者の手。
堅く肉刺ができたり、ところどころ節がある。
そんな両手を包む僕の手が真っ白で、柔らかいのが恥ずかしかった。
君は大きな目を僕に向けて「どうしたの?」と尋ねた。
「iotuは、夢を見るような気持ちで最後の嘘をつきました。
それは前へ進むための嘘でした。
「くだらない毎日なんて、消えてしまえ」、と。
本当に、ごめんね。」

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僕は、夢を見るような気持ちで最後の嘘をついた。
夢ではない。それは前へ進むための嘘だった。
描いた夢を現実にするための嘘だった。
「くだらない毎日なんて、消えてしまえ」と。
毎日をくだらなくしていたのは僕自身なのに言った。
君の瞳に宿った光は切なかった。
本当に、ごめんね。僕は謝る。
別れは、いつもの喫茶店。
僕はブレンドを飲んでいた。
いつもよりも涙一的分、塩辛かった。
「君とは、幸せになれないから、別れよう」と僕は言った。
「そうだね」向かい側に座った君はケーキに手をつけずに、うなずく。
「二人そろって、不幸になるだろうね」君は何もかも達観した口調で言った。
少女の二つ名は『真昼の照明器具』。
儚げない少女には似合わないあだ名だった。
そう思っていたのは僕だけだったようだ。
何があってもめげず、明るい少女を見て納得をした。
まさに『真昼の照明器具』だった。
無駄だと感じるほどに少女は明るかった。
あだ名の通りの少女に僕はためいきをついた。
クルーたちは全員無事だった。
それを確かめてから、艦長のもとに向かった。
「全員無事です」と僕が言うと「当然だろう」と艦長は鼻で笑う。
それに僕はカチンとなって詰め寄る。
「一歩間違えれば、責任問題になっていたかもしれないのですよ」と僕は艦長に言った。
「俺の船ではないさ」と笑う。
ずっと君を見ていた。
同じ時間の同じ車両の窓際で本を読む君を。
そんな君に声をかけたくて、その勇気もない僕は、さりげなく、自分の両手を握る。
神様が縁を結ぼうかと、君の細い手から栞を落とさせた。
僕は素早く拾い上げ「落としましたよ」と君に声をかけた。
それが僕と君の出会いになった。
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