境界へ飛び込む。
一人ぼっちの昨日までとは、永久にサヨナラだ。
愛刀が答える。
これからは心躍る戦いが待っている。
それを考えるだけで心音は早くなる。
もうすぐ境界を抜ける。
一人ぼっちではなくなるんだ。
殺し続けることが正義の世界へ、愛刀だけを連れて行く。
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耳がトタン屋根を叩く音を拾った。
この世界では雨は無差別に降る。
カーテンを開き、窓を開ける。手の平で雨の感覚を確かめる。
冷たい。
雨はこれから強くなるだろう。
何事もなかったように窓を閉じ、カーテンを閉める。
耳だけで雨のリズムを楽しむ。トタン屋根のドラムマーチを。
彼女は亡国の歴史が綴られた一冊の本をいつまでも大切にしている。
ページをめくってもその国はすでに滅んでいるというのに。
新しいことは何一つない。
痛みをやり過ごすにしてもつたないやり方だと彼も思った。
それでも彼女は亡国の歴史を綴った本をくりかえし読む。
一人分のお茶は意識しないですむから楽。
二人分のお茶は意識するから大変。
お茶にこだわりがあるあの人が「美味しいです」と言ってくれるか、緊張しながらティーカップをあの人の前に置く。
緊張はクライマックス。
「今日のお茶も美味しいですね」
あの人が微笑む。
もう会えないあなたの名前を思い出したら、あの時の好きという気持ちも思い出して、涙がボロボロこぼれた。
「最近、涙腺ゆるいなぁ」と自笑して、あなたの名前を想い出として仕舞う準備をする。
こぼれる涙を手の平でぬぐった。
静かな静かな夜でした。
胸の奥に灯った恋心がちりちりと燃える音が耳に響くほど静かな夜でした。
あの人を想って息が詰まる、そんな所作まで音になるような静かな静かな夜でした。
愉快そうに笑う唇を睨むと髪を梳かれる。
着物を焚きしめられている香りが鼻をくすぐる。
「ここにいるよ」と唇は紡ぐ。
子ども扱いされたような気がして、さらに睨む。
香りが深くなってまなじりに口づけされ、頬に、鼻に、やがて唇に。
不満顔が崩れてしまった。
ずるいと思った。
昼の公園のベンチに座って真昼の月を見つめる彼女の横顔を僕は見つめる。
ふいに彼女がこちらを見たから、慌てて缶コーヒーを飲む。
彼女の横顔を眺めていたなんておくびも出さずに。
真白い真昼の月は彼女に良く似ている。
つかめそうでつかめない。
ひっそりと輝いているところとか。
ぽつんぽつんと落ちているキラキラとした硝子球。
キラキラ光るそれで道ができている。
私は一個ずつそれを拾い集めて、太陽に透かしてみたり、手の平で転がしてみたり、つるっとした表面にキスをしたり。
最後のひとつを拾ったら貴方と会った。
「初めまして」
初めてな気がしないけど。
「離して!」彼女の言葉に反応して掴んだ右手をより強く握り、笑う。
彼女の瞳の中に嘲笑する自分が映った。
少女は空いた左手で殴りかかるが、弱々しいもので、彼は首を傾けるだけで避けた。
このままでは終われない、どちらかが納得するまで続く拷問なのだから。
濁った空気の中、彼女だけは静謐を保ち聖者の威厳があった。
炎の巨人が踏み潰す。
「死なないで」という祈りも虚しく、彼女が立っていた場所は消し炭が残るだけであった。
歴史という暴力的な風は記す。
聖女マルゲリータの最期を。
淡々と淀みなく流れ去る。
深夜のベッドの上で恋人と抱き合う。
軽くビールを飲んだからだろうか。
今日の彼女は饒舌だった。
普段ならもらしたりしない愚痴や不満をこぼす。
その顔がまた可愛くて、僕はキスをする。
外で降る雨のように彼女の額に鼻にまなじりに頬に、最後は唇に。
携帯電話を開いては閉じて、開いては閉じてる。
君に伝える言葉、君に伝えたい言葉が胸の奥で渦巻いているのに形にならない。
君に一番伝えたい言葉は決まっている。
でも言葉が軽すぎて想いに足りない。
いつでも、どこにいても、君を想っている。
好きだけじゃ足りない。愛している。
虫の鳴き声がいっそ儚く響く夜でした。
季節の移り変わりというものは目には映らないものですが、ふとこういった瞬間に気がつかされるのです。
それは何気ない合図ではございますが、体にも知らされることなのです。
虫の音に切なさを感じる夜は私の心に切なさが宿っているからでしょう
「何でも屋だって言ってたじゃない」
はた迷惑な依頼人が言った。
「それとこれとは別だ」
俺は答える。
風でほどんど聞き取れないかと思ったがサイボーグだけあって聞こえたようだ。
「死なないで」
依頼人が言った。
「生きていたら迷惑料加算してもいいか?」
俺は訊ねた。
「もちろん!」