幸せはいつも向こう側にある。
どれだけ手を伸ばしても届かない場所にある。
優しく温かいものの傍らに入たいと思うのに、どうしてそれができないのだろうと自問自答をくりかえす。
幸せはいつだって手に入らない向こう側にある。
一人で幸せではない場所に立っている。
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仮想現実における模倣実験。
偽りの空間で覚えるゲームみたいなもの。
僕は一本の木を植える。
クリスマスが近かったからモミの木を植えた。
それが経験値になる。
何の木を植えたのかも後々で関わってくる。
数日後、一本の木は僕の家を傾けるほど大きくなった。
「こないで」僕は拒否の言葉を口にした
生きている。
息してる。
興味のないようなビードロのような瞳で作り物の空を見上げる。
星を数えて、飽きて、それまで積み上げてきたものを放り投げて、星の数どこまで数えたか忘れる。
また初めからやり直しだ。
息が止まってしまえば煩わされることなんてなくなるのに、生きている。
痛みの雨が降る。
肉体をすり抜けて心に届く痛みは幻だとしても、いや虚像だからこそ酷い。
透き通った玻璃のような針が雨になる。
肉体を抉りながら心をも抉る。
痛みという熱に焦がれるようになるのも時間の問題だった。
生きているという痛みを欲するのも人だからか
あの丘まで行けば逃げ切れるような気がした。
紅の液体がぽたりぽたりと流すあの生き物から離れられるような気がして。
「もう嫌だ。こりごりだ」
背筋に冷たさを感じながら僕は呟いた。
自分のものではない荒い呼吸音が耳元でする。
怖いもの見たさで近寄った己の馬鹿さ加減を悔いいる。
古ぼけた寺院に少年と少女はいた。
二人はここで育った。
もう帰ることのできない過去だ。
二人の間に横たわっているのは、どちらかの破滅のみ。
「もう逢えないの?」
少女は言った。
少年はうなずいて踵を返した。
「待って!」
少女の声が追いかけてくるが少年は無言で答えにした。
彼女に嫌われた。
破滅だ。
この世は地獄だ。
僕はそんなことを考えながら、いつもの道を歩く。
彼女は許してくれるだろうか。
もうすぐ彼女の通学路と重なり合う。
セーラー服を着た彼女は僕を見て「ご機嫌よう」と微笑む。
「お、はよう」
僕はどうにか言った。やっぱりまだ怒っている。
「生きている価値なんてないんだよ。
ただ浪費しているだけなんだ。
もう放っておいてくれないか」
「価値があるか、どうかなんて誰が決めたの?
自分だよね、決めつけたの。
私は貴方が価値がない人間とは思えない」
「生きているのが苦痛なんだよ」
「それでも貴方は生きていなきゃいけない人だよ」
お別れの言葉を言いましょう。
綺麗に美しく着飾らせて。
この別れが永遠だということを忘れないために、華麗な言葉で告げましょう。
胸に痛みが走りますが、貴方との別れは定められた円盤に描かれているのだから、諦めましょう。
ああ、愛しい貴方。
別れの時間がやってきました。
今日は何もない平穏な日だったが「とっておき」を出したくなった。
台所の下に眠る酒瓶たちの中からとっておきの果実酒を出す。
透明なグラスに移せば琥珀の色が美しく香りは豊かで芳醇。
口当たりはまろやかで歳月を感じさせる。
今日は良い夢が見られそうな気がする
「朝よ。起きて」
優しい声が囁く。
「あと5分」と言うと 「さっきもそう言ったでしょ。もう5分たったわ」暖かな手が揺する。
それは幸福な記憶。
目覚めるのがもったいない至福の連続だった。
それは過去のこと、今は目覚まし時計のアラームにお世話になっている。
真っ黒な胡蝶が飛んでいく。
一つ、二つと連れ立って飛んでいく様はまるで葬列で、振り向いてまで見送る己の寂しさを写し取っているかのようだった。
終わる夏が見せた幻想のような光景。
それはそれは言葉にしてしまうと陳腐な美しさだった。
漆黒のような蝶の羽の色に哀しみを滲ませて
どんなに大切にしていても、やがて壊してしまう。
自分の手の中で壊れていってしまったモノを見るのは何度目だろう。
もう見たくない。
だから大切なものから離れていくしかない。
一番大切な君を傷つけたくないからサヨナラだ。
僕が君を壊してしまう前に離れよう。
大切だと伝えたかった
怒り狂った昼の太陽を目指して青年は歩を進めていた。
ジリジリと身体を焼く太陽は人にとって慈愛の象徴ではなくなった。
太陽を落とすために青年は一人旅を続ける。
「死なないで」と幼なじみに渡されたお守りが胸元で揺れる。
青年は今一度、太陽を見上げた。
優しさの切片もなかった。