夜が安心だったのは過去のことだ。
青年は天井を睨む。
今日こそは安眠を手にしたいと思い、布団にもぐったが眠れない。
枕元の神剣・神楽が気になって眠れないのだ。
起き上がり、中途半端に伸びた髪をかく。
神剣・神楽は静かに眠っている。
敵は近くには潜んでいないようだった。
地球型の惑星を偶然発見したのはラッキーだった。
依頼人から鳥の化石をなるべく良い状態の物を頼まれていた。
この惑星なら見つけられそうだった。
ヘルメットをかぶって惑星探索を開始した。
目星はだいたいついている。
程なく最強のかけらを発見した。
依頼人も満足するだろう。
差し込む日差しも弱々しいものになり、葉も色づいた。
季節は過酷な冬へと着実に迫っていた。
嫌な咳が続く。
窓際に黒装束の死神が見えるようになったのは、そんな時だった。
たいして長くもない人生だったけれど、さよならをするのには未練があった。
花咲く季節に眠りたかった。
カラカラと教室のドアを開ける。
無人の教室は寂寥感が漂っていた。
昨日まで座っていた机の表面に触れる。
椅子を引いて座る。
黒板には担任からのメッセージが書かれていた。
三年間は短かった。と思い出と共に振り返る。
この学校に入学して良かったと思う。
友達もできたし夢もできた。
黄昏色をしていた日差しが落ちた。
畳の上でトランプを広げていた二人は、どちらともなく視線を合わせた。
風がそっと室内を旋回する。
夕方から夜になるのが早くなった。
夜は二人にはまだ早い時間だ。
もっと大人にならなければならない。
さよならを言うのが苦手な二人は黙りこくる。
神剣・神楽を押しつけてしまった。
それで青年の運命は変ってしまった。
もっと平和な暮らしを送るはずだった青年に、血みどろの非日常を押しつけたのだ。
過去にもそんな例はたくさんあったらしい。
見守ることしかできない少女は泣きそうになりながら、自分の両手を軽く握った。
目の前に置かれた神剣・神楽を見る。
適合者だからと同族殺しの乱闘に放り込まれた。
少女と出会った日が運命を変えてしまった。
気だるい日常は追いやられ、生命のやりとりをする戦場が日常になりつつある。
戦う意味を求めてまた朝が来る。
中途半端な髪をヘアゴムで結ぶ。
刀を握った。
映像の中で泣き顔の少年が座り込んでいた。
同じ年頃の少女がやってきて、少年の両手を指先でつつく。
構って欲しかったのだろう。
少年は涙を拭って、少女に話しかける。
少女はパッと笑顔になる。
映像はそこで途切れた。
懐かしい過去だ。
泣いていた理由も忘れてしまったぐらいに。
少女は元々華奢な体つきではあったが、ここ数日の風邪のせいで痩せた。
日向に当たるとより鮮明になる。
「好き嫌いをしていると、治るものも治らなくなるぞ」と説教くさいセリフが出てしまった。
少女は「そうだね」と小さく頷いた。
それがあまりにも儚げで、こちらの胸が痛む。
その映像は月光の下、バレリーナが躍る映像だった。
わざわざドビュッシーの月光がBGMに使われていた。
聞き飽きていたので「聞きたくない」と伝えるとBGMは消された。
沈黙の中、バレリーナたちの練習風景が流され続ける。
ひときわ輝く乙女を指さし「彼女がプリマだ」と伝える
隣の席が空席だった。
いつもだったら本を読んでいるつむじが見える。
物足りない気分でいると、教室がざわめく。
担任がホームルームにやってきたのだ。
担任は、私の隣の席は風邪で休むという簡素な連絡をする。
特に話をする間柄ではなかったが、隣の席が空いているのは胸が空虚になる
たったひとつ欲しい物が手に入らない。
白金色の頭髪の少年のせいだ。
万年一位様がいるせいで、いつだって二番手に甘んじている。
少女はテスト結果を貼り出された廊下で拳を握る。
責任転嫁だということは分かっている。
本当は自分の実力が足りないせいだということは分かっている。
負け戦が続き、士気は下がっていた。
生き延びるのが目標の戦いに分があるのだろうか。
そんな時に戦女神の化身のような乙女が現れた。
要塞は久しぶりに活気が湧いた。
乙女がいれば勝てるような気がした。
戦女神に重ねられた乙女は先陣を切る。
その戦から、破竹の勢いで勝ち続けた。
煌めく星空に虜になった少年は、やがて背が伸び、その分だけ知識が増えた。
青年と呼ばれる年齢の頃には、一角の研究者になっていた。
同じ年頃の子供たちが遊んでいた頃、彼は本に向かっていた。
少しでも憧れの地に行けるように目指していた。
青春すべてを研究に捧げたのだった。