居心地が良かったから、距離を縮めようとは思わなかった。
友達以上恋人未満。
何でも話せる大切な相手。
約束もせずに別れても平気な人物。
また、明日があると思っていた。
好きだと伝えなくても大丈夫だと考えていた。
けれどもそれは思い違いだった。
遠回りをしたけれども、今言おう。
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少女は泣きそうになりながら、青年の両手に触れる。
肉刺だらけの両手にいつも守られている。
本当は戦って欲しくはない。
神剣・神楽を押しつけたのに、そんなことを考えてしまう。
傷だらけの青年の姿を見る度に、胸の奥ので焼けつくような思いに囚われる。
わがままだとは分かっている
彼は遠い目をしながら、かつての幸福を語る。
それは蜜のように甘く、劇薬のようだった。
今の彼は間違いなく不幸だった。
周囲の人間とも疎遠で、大切な人をなくしたばかりだった。
それでも彼は耐える。
過ぎ去った時間が幸福だったから、それを思い出せば辛くないと。
微笑すら浮かべる
過ぎ去ってから気がつく。
彼女はまさしく青春だった。
一緒に過ごした季節は胸の奥底で今も眠っている。
たまに目覚めて、チクリと心を刺す。
元気にしているだろうか。
笑顔でいるだろうか。遠く離れて、思い出になってしまったから心配になる。
記憶に残る日々はいつまでも美しい。
いつだってそう。
ブランコに座りながら時間を潰していた。
ゆらゆらと揺れるブランコと気持ちがシンクロする。
心が行ったり来たりする。
もう子供じゃないんだから、家に帰らなければならない。
日はとっくのとうに沈んでいる。
今日もまた両親は口論をしているのだろうか。
聞きたくない
深夜、僕と彼女は待ち合わせをした。
頼りない外灯の下、大きめな鞄を持って彼女が待っていた。
「行こうか」と僕が言うと、彼女は泣きそうになりながら、手のひらを指先でなぞる。
少しくすぐったい感覚に、僕は笑った。
彼女の指先を力強く握り締めた。
「大丈夫だよ」と僕は言った。
いつの日か別れがくることは、分かっていた。
ひとところに留まることはないと知っていた。
まるで風のように心の中を掻き乱していった。
出会ったことを後悔したくはなかった。
だから、去り行く彼を笑顔で見送った。
それだけが私に出来ることだったから。
少女は夜更けにもかかわらず起きていた。
気がついたら神剣・神楽と共に青年が姿を消したからだ。
一人では行かないと約束をしたのにあっけなく約束は破られた。
一刻も早く帰ってきて欲しい。
音もなく回る秒針を見つめながら少女は願った。
神剣・神楽があるのだから無事に決まっている
それはありふれた感情。
一人で孤独だったから、彼女が与えてくれた優しさに縋りついた。
甘えだと実感している。
寄りかかっていると、このまま時がすぎて永遠になってしまえばいいのにと思ってしまう。
こちらにはメリットばかりだけど、彼女が優しくしてくれる理由は未だに分からない
私と彼は、手を繋いで歩くのもやっとの出来たてほやほやの恋人同士。
照れて、並んで歩くのもためらいがち。
彼の唇はどんな感触がするのだろうか。
ファーストキスもまだまだな私は今日こそは、と思うけれどもなかなか上手くいかない。
どんな顔をしてキスするのだろうか。
気になる。
あの時、勇気を出して言っていれば、違う運命が待っていたのだろうか。
それとも変わらない未来が待っていたのだろうか。
あの時に戻ることが出来ないから、より考えてしまう。
もっと違う未来があったのかもしれない。
過ぎ去った過去に「もしも」はない。
分かっていても囚われる。
少女が怒るのがわかっていながら、つい意地悪をしてしまう。
「好きだ」と素直に表現できない。
怒った顔の少女も好きだから。
こちらを真っ直ぐ見て本気で怒ってくれる。
そんな少女を見れるのは自分だけ。
その特別感が捨てきれない。
だから、今度はどんな意地悪をしようか考えてしまう
心の芯まで凍えるような日は、ホットココアを淹れる。
鍋にちょっぴりの牛乳とココアの粉を混ぜて、木ベラで練る。
よく母が作ってくれたように、手順は完璧だ。
いい香りがしてきたら、牛乳を少しずつ足していく。
もうすぐ出来上がりだ。
お気に入りのマグカップに甘いココアを注ぐ。
少女は泣きそうになりながら、青年の腕を指先でなぞる。
「ごめんなさい」と少女は呟いた。
神剣・神楽のおかげで傷は癒えている。
さほど大きな怪我ではなかった。
それでも少女にとっては大怪我に映ったのだろう。
乾いた血の上から傷跡があった場所を優しくなぞる。
涙が双眸に宿る。
今日は流星群がピークを迎えるらしい。
青年に伝えたら、鼻で笑われた。
流れ星には興味がないとにべのない言葉。
少女は瞬く星を見上げる。
いつ流れるとも分からない星に目を凝らす。
そんな少女に青年はマフラーを渡す。
さり気のない優しさに少女は微笑んだ。
仲良く並んで空を見上げる