蒼穹色の瞳に見つめられると、鼓動が早くなる。
今まではそんなことなかったのに。
ある日、突然それはやってきた。
本当に唐突だったから、とても途惑った。
ドキドキする胸を抱えて、今日も何でもない振りをする。
他の人から見つめられても平気なのに。
蒼穹色の瞳は特別なのだ。
いつもと違う自分を見て欲しくて、浴衣を着た。
夏祭りは思ったよりも盛況だった。
人混みではぐれそうになり、慣れない草履が脱げそうになる。
楽しいはずのお祭りが、ちっとも嬉しくない。
前をずんずん進んでいく大きな背中を追いかけながら、涙目になる。
こんなはずじゃなかったのに
ゆっくりと隣を歩いてくれる彼。
手が触れそうで触れない距離。
好きから始まった恋は、まだまだ熟成していない。
彼の大きな手のひらに包まれたら、どんなに胸が弾むだろう。
彼の影を見つめながら、帰る道。
帰る方向が同じということしか知らない。
彼の心を覗いてみたいと思ってしまう
青年は神剣・神楽を持つ前に、必ず髪を結ぶ。
中途半端に伸びた髪を纏めるのは、くせなのだろうか。
儀式めいたそれを少女は目に映す。
これから戦いに同行する。
少女ができることは結界の外で待つことだけだけれども。
それでも一緒に行く。
青年の戦いを見守るのは役目だと思っている。
「どうか、その手で殺してください」と少女は言った。
片手でおさまるほど細い首に手を置く。
温もりと脈拍が指先に微かに伝わってくる。
「死にたいのです」真っ直ぐとした視線がこちらを見つめる。
瞳には何もかも諦めてしまった影が漂っていた。
力をこめれば、たやすく折れるだろう。
明日のことを考えると眠れない。
何度目かの寝返りを打つ。
すでに破滅への助走は始まっている。
もし過去を変えることができるのなら、今すぐに時計の針を逆回しする。
耐え難い未来が待っている。
刻々と過ぎていく時間に何度も後悔をする。
目をつぶっていても、そのことに囚われる。
深く追求せずに引き受けてくれた青年にかける言葉が見つからない。
満身創痍の姿を見ると心が痛む。
戦いが終わることを祈るしかできない。
せめて一緒に戦えればいいのに、と思う。
結界の外で少女は拳を握る。
何もできない無力な自分が嫌だった。
青年は今日も神剣・神楽と共に戦う。
今日も彼女は美しい。
それを正直に伝えたけれども鈍感な彼女には響かなかったようだ。
「みんなに言ってるんでしょ。ホント口が上手いんだから」と笑う。
その仕草も綺麗だったから、見蕩れる。
ずっと彼女だけを見ていることを伝える決心ができない。
さらりとかわされそうで不安になる
「ねえ、キスして」少女が青年に言った。
青年は少女の額にくちづけを落とす。
眠れない子が寝るようなおまじないみたいなキスだった。
少女は子供扱いされたことに怒る。
恋人同士のように唇を重ねたいのに。
いつだって額に唇を寄せる。
いつになったら本当の恋人になれるのだろうか。
節くれた指先が薔薇を手折る。
笑い方を忘れた主の下に届ける。
主は今日も窓辺に佇んでいた。
薔薇を差し出すと主は手に取る。
「お前だけは変わらないのね」
吟遊詩人であれば気の利いた言の葉を綴れるだろう。
けれども戦場しか知らない武士である自分には返す言葉が思いつけなかった。
墓地はお線香の匂いがした。
生温い風に乗って鼻をくすぐる。
少女が上目遣いで、少年の指を指先でつつく。
「ねぇ何か話してよ」と少女が言った。
「何かって何を話せばいいの?」少年は質問をした。
「何でもいいわよ」少女の声が震えていた。
「じゃあ、怪談でもいいの?」少年は尋ねた
「お元気で」と手を振ってくれた君。
無性に抱きしめたくなって荷物を放り投げた。
走って小さな背を抱きしめる。
「卑怯ですよ」と君は涙混じりの声で言った。
「本当は最後まで笑顔で見送るつもりだったんですよ」と君は言った。
どうしてこんな愛しい存在を置いていけるのだろうか。
巻き込まれた当初は面倒事だと思った。
神剣・神楽に選ばれたといわれても嬉しくなかった。
世間知らずの少女を放り出すこともできずに受け入れた。
それも今は思い出になってしまった。
毎夜、繰り返し行われる命のやり取りにも慣れてきた。
中途半端に伸びた髪をヘアゴムで結ぶ。
少女は何をするのも、嬉しそうだった。
近所の公園に花見に来た。
小さな公園だから、出店などない。
ベンチに腰かけ、少女特製のお弁当を食べる。
平和だなとしみじみと思う。
ほんのつかの間の休息だと分かっている。
神剣・神楽を手にしている以上、戦いは避けられない。
考えたくはない