『将来何になりたい?』と教師役の漢学者が尋ねた。
子供たちはめいめいに答える。
「武士になりたいです!」少女が言った。
「女が武士になれるわけないだろう」と隣の席の少年が鼻で笑う。
喧嘩になりそうなところを漢学者は割って入る。
少女は悔しそうにうつむく。
銀の簪が涙の代わり揺れる。
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軸が水晶のように透明なボールペンはお気に入りだ。
卒業の時に記念に貰ったものだ。
名前が彫られていることに照れる。
見る人見る人『そのボールペンは?』と尋ねられる。
それほど美しいボールペンだった。
インク乗りも良く、すらすらと書ける。
本当に重宝している。
仕事柄何本あってもいい。
夜が来る前に君に会いに行こう。
夜は君を隠してしまうから。
太陽の下、笑う君がいい。
夜のとばりが降りる頃、君は影を帯びた瞳をする。
心細いのだろうか。
華奢な君の肩を夜が抱き締めようとしている。
僕は必死に引っ張るけれども、力が足りない。
ああ、明日の朝迎えに来よう。
さあ、お休み。
手と手がふれあった瞬間。
何かが生まれました。
私とあなたの間に生まれてきた感情は、泣きたくなるような、笑いたくなるような。
ただ二度と離してはいけないことだけは分かっていました。
きっとあなたも同じ気持ちだったんでしょう。
言葉はいりません。
そんな無粋なもので形作ってはいけない
独りぼっちが寂しかった夜。
星ばかり見上げて涙をこらえた夜。
あなたから着信があった。
「どうしたの?」と明るい口調で尋ねた。
そしたら、あなたは「声が聞きたかったんだ」と照れているように言った。
ドラマじゃあるまいし、恥ずかしい理由だと思ったけれども、優しさに涙が零れ落ちた。
いつの間に心がすれ違っていたのだろうか。
同じものを見て、喜びを分かち合う。
同じものを見て、涙を零す。
二人は全く違うのに、ずっと前から一緒だったようにぴったりと合わせられていた。
それが今は違う。
君が何を考えているか、分からない。
二人はいつでも同じ気持ちだったはずなのに。
「酔ってるだろう?」道の先を行く彼女に声をかけた。
「酔ってませーん」とやたら陽気に答える。
千鳥足でふらふらと歩く彼女は完全な酔っぱらいだ。
車通りの少ない道とはいえ危険だ。
足早に僕は彼女に追いつく。
彼女はさりげなく、手のひらに指を絡める。
「どうして手が繋げないの?」と笑う。
あなたは「もう自分の為に生きられない」と小さく笑った。
あなたを襲った災難は、目にも無残な物だった。
だから、生命を終わらせたいと願うのも無理もなかった。
けれども、そんなあなたを引き留めたい。
「私の為だけに生きて」と我が儘を言った。
涙を零す前の目に光が宿る。
「そうだね」
子供の頃は毎日が虹色に染まっていた。
どんなことも楽しかった。
どんなことも嬉しかった。
歳を取るということなのだろう。
苦しいことを知るようになった。
辛いことを知るようになった。
幸せから遠ざかったような気がした。
痛みは目に見える物だけではないと気づいた。
もう虹色の世界は終りだ。
夫になった人は、毎朝、新聞を読む。
朝ご飯の最中に。
こちらに興味はないがないのだろうか。
好物と聞いたものを並べてみても、あまり好きではない物を並べていても、反応は一緒。
とても胸が傷つく。
空になった茶碗を差し出す。
「お替りですね」と笑顔を作り、茶碗に雑穀米を盛る。
「どうぞ」
「何でもできることをするって約束だろう?」と少年は言った。
軽はずみな約束をしたものだ、と少女は後悔した。
赤点ギリギリの少年のやる気を出させるためだった。
「ほら、ついたぞ」お化け屋敷の前で少年は言った。
その顔は生き生きとしている。
少女は仕方なく、両手のひらにしがみつく。
君はこの世でただ一人だけ、僕を殺すことができる人間だ。
君のことを想うだけでこの胸は灼熱に焼かれるようだった。
君のさりげない一言に一喜一憂する。
こんなにも誰かを想うことは初めてだった。
君の為なら、この生命は惜しくない。
君を想って痛む心臓を一突きすることは、とても簡単だ。
学校は坂道の上にある。
自転車を降りた。
漕いでいるよりも、歩いた方が早い。
そう判断したからだ。
自転車を押しながら学校を目指す。
どうしてこんな急勾配の土地に学校を立てたのだろうか。
恨みたくなる。
そんな私の考えを馬鹿にするように一台の自転車が通り過ぎる。
「またな」と去っていく
羽織る白装束は死に帷子。
生命を捨ててまで前進する覚悟の表れ。
武士の家に嫁いできたのだから、いつかは覚悟しなければいけないこと。
今度が最後だろうか。
今度も無事に帰ってきてくれるだろうか。
白の単を縫っていたら、ぽたぽたと涙が零れてきた。
嗚咽から慟哭になる。
単を抱え独り泣く。
「大丈夫だって」夫になったばかりの人が言う。
「だって鉄の塊だよ。空を飛ぶなんて信じられない」と私は言った。
「飛行機が墜落する確率と交通事故にあう確率は後者の方が多いんだ」と諭す。
「ずっと手を繋いでいてやっから」と夫は言う。
私は恐る恐る、両手に触れる。
薬指には揃いの指輪。