彼がいつも身につけているロケットペンダント。
誰の肖像画が描かれているのか気になっていた。
鎖が緩んで、ロケットペンダントが落ちた。
僅かな狭間から、見たこともない美女が微笑む絵が見えた。
悔しくって奥歯を噛む。
「ありがとう」と彼は言った。
誰なのか、問い詰めることはできなかった。
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夏も真ん中。
珍しく雨も降っていない。
裏の墓地に肝試しがてら散歩に行こうとなった。
僕は嫌な予感がしながら、賛成も反対もしなかった。
ワイワイと話しながら墓地まで辿り着いた。
君は泣きそうになりながら、僕の腕に指を絡める。
痣ができるほど強く握られ、幽霊よりも厄介だと思った。
逃げ回った罰だというのか。
神剣・神楽の使い手としてふさわしい態度ではなかった。
だからといって結界の外にいた少女の腕を切りつけた同胞は許せない。
絶対守ると決めていたから青年は打ちのめされる。
中途半端に伸びた髪をまとめていたヘアゴムを結び直す。
ここからは全力で行く。
決めた。
屈辱だった。
没落しかけているとはいえ、れっきとした貴族。
平民ごときに頭を下げなければいけないのか。
怒り顔で、指先を握り締める。
そうしていなければ平民の顔を殴り飛ばしてしまいそうだから。
こちらの足元を見た商談は苛々する。
それでも貴族の矜持を持って挨拶をした。
手は震えていた。
テーブルの上から落とせば、切ない音を立てて砕け散る。
そんな恋をした。
まるで硝子のような片想いだった。
告げた瞬間、壊れてしまうような。
千年かけて土に戻るような。
水が入ったグラスのように、時間がたてば表面に滴がつくような。
それは、どこか涙に似て、口に出せないような恋でした。
サーカスのピエロは笑い役。
身振りだけで涙を笑顔に変える。
一言も発しないで、ユーモラスに体を動かす。
誰も彼もがその様子に笑う。
するとピエロはもっと面白そうに手品をしてみせる。
連れてきて良かったと思った。
普段、笑うことの少ない少女が声を上げて笑った。
青年は泣きたくなった。
空という湯船に流れる流れ星は、どれほど矮小な存在なのだろう。
それでも願い事をすれば叶えてくれるという。
自分と重ねる。
そんな心の広いことはできなさそうだ。
己のことでいっぱいいっぱい。
湯船を肩まで浸かって、今日の疲れをいやす。
色んなことがあった、と振り返りながら心に星を宿す。
少女は小さく咳をコンコンとする。
お見舞いにきた少年は少女を寝かせようとする。
「大丈夫。起きている方が楽なの」少女は微笑む。
そして嬉しそうに、少年の指先と自分のそれを触れ合わせる。
「お見舞いに来てくれて、ありがとう」少女は言った。
「ちょっと心配だったからさ」と少年は言う。
求人広告にも墓の管理人が載る時代。
ビックリして手が止まった。
ノアの箱舟から遠く。
死はカジュアルなものになってしまったのだろうか。
折込チラシをながめながら思った。
墓参りをこまめにしよう。
最近、足が遠のいていた。
そんなことを考えた。
ちょっとだけ寂しい気持ちになった。
いまだに意中の少女に『好きだ』と告白できていない。
女々しい思考回路に言い訳を、そろそろできなくなってきた。
少女と出会った時に、滑り落ちるように恋に堕ちた。
世界は彩られたように、はじけて輝いた。
一目惚れだった。
それなのに、たった一言が言えないから、いまだ友だち同士だ。
仕方ないと片付けるには悔しい。
どうにか報復はできないだろうか。
例えば、不意打ちにキスをしたり。
こちらを男として意識をしていない少女にはちょうど良いだろうか。
けれども、それで少女が泣きだしたら後悔をするだろう。
結局は現状維持。
優しいお友だちのままだ。
少年はためいきをついた。
どれほど慟哭していても、進む道は一つきり。
レールのように真っ直ぐと引かれていた。
それを脱線する勇気のない自分に歯噛みする。
誰もが思った通りの道を歩む。
己の意思とは無関係に。皆は喜ぶだろう。
けれども、大声を出して泣きだしたい。
進みたい道は違うのだと。
もっと自由が欲しいと。
カンカンと照る夏の日差しの中、男は立ち尽くしていた。
送り人は無言で儀式を見守る。
それにしても暑い。
男は涙を流さない泣き顔で、両手のひらを軽く握る。
理性がきっちりと働いているようで、安心した。
子どものように大泣きをされていたら、今まで作ってきた印象をぶち壊してしまうから。
流れ星は星の終わり方の一つなのだと聞いた。
それは誰からだったものか、忘れるぐらいにはるかに遠く。
隕石が落ちたニュースを見ながら、思い出した。
教えてくれた人は薄情だと笑うだろうか。
それとも、私らしいと苦笑するだろうか。
そんなことを思いながらテレビに釘付けになった。
君は涙を目の端に溜めて言った。
「本当の貴方が見えないの」僕の服の裾を握った。
「僕は僕だよ」僕は作り笑いを浮かべる。
君は悲しそうな顔を作る。
「悲しいのなら泣いてもいいのよ」君は言った。
「悲しいのは君の方だろう?」僕は君の頬を撫でる。
「自分をごまかさないで」君はなおも言った。