友だちと電話をしていると、飼い猫が突進してきた。
『構え!構え!構え!!』というように。
話を続けながら、猫の喉を撫でてやる。
甘えん坊な猫は上機嫌にゴロゴロと喉を鳴らす。
風邪を引いていた捨て猫を拾った時は家族も大反対していた。
けれども、今や我が家のアイドルに収まっている。
PR
予感はあった。
ずっと雷が鳴っていた。
ひときわ大きな音がして、暗闇は訪れた。
どうやら停電したようだ。
独りっきりで取り残されたようで、暗闇の中で震える。
不自然な暗闇だった。
蛍光灯が明滅して、パソコンが起動する音がした。
SNSに一刻も早く書きこみたい。
電気がないと生きてられない。
生まれる前からのお隣さんは心配性だ。
私を見ていると危なっかしくて仕方がないそうだ。
高校最後の楽しみの修学旅行で同じ班になってしまった。
あれこれ言われるんじゃないかと、行く前からげんなりしてしまった。
現地に到着すると力強く、両手のひらを触れ合わせる。
「行くぞ」手を繋がれた。
失せ物探しは苦手だった。
探していない物が見つかる。
この時もそうだった。
白い珊瑚のペンダントが出てきた。
夏の間探していたのに見つからなかったものだ。
季節を置き去りにした感じがして、ぼんやりと眺めてしまった。
探し物はいつか出てくるだろうか。
珊瑚のペンダントをしまう。
「これからいっぱい食べて、勉強をしなさい」妙齢の女性は笑顔で言った。
妖艶な笑みにまじまじと見惚れてしまった。
今までの生活よりも良い生活を与えられていいのだろうか。
返事ができずにまごついていると「誰のものだとお思いで?貧相なものを側に置きたくないんですの」女性は麗しく言う。
もうすぐ誕生日がきて大人になる。
もう子ども扱いされないのだ。
この日をどんなに待ち望んだろうか。
お酒を呑んでも、煙草を吸っても、咎められることはないのだ。
ただ大人になる怖さがあった。
子どもだからと許されていたことを自分の責任で持たなければならない。
もう少し子どもでいたい。
戦に負けた。
戦国の世の習いだ。
この小さな国は植民地として隷属することになった。
それを読む官吏に首を垂れる。
代理とはいえ皇帝の使いだ。
この国では官吏は皇帝に等しい扱いをすることになっている。
瞳から熱いものがこみあげてくる。
戦火で散らず、おめおめと生きながらえている悔しい。
待ち合わせというわけではないが、同じ電車の同じ車両に乗る。
混雑には、まだ早い時間なので、座席に座ることができた。
電車の中で一番忘れ物が多いのは傘だという。
俺はしっかりと柄を握る。
隣の存在は傘を持っていなかった。
「ねぇ、雨が降ったら傘に入れてくれる?」とちゃっかりと言う。
DVDに時折、指が映りこむ。
「これ、お父さんの指?」一緒に録画を見ていた母に尋ねる。
「お前が生まれてから、猫可愛がりだったのよ」母は偲ぶ。
不思議な感じで見つめる。
物心つく前に他界してしまったので、父という存在がピンとこない。
「本当に子煩悩な人だったのよ」と母は柔らかく笑う。
「さあ、挨拶をしなさい」父が言う。
私は売られたんだと自覚した。
浪費家の母の借金を補っても有り余る結納金のために。
恐る恐る、相手の顔をチラリと見る。
成金らしい卑屈さが漂っているがこちらは没落貴族だ。
自分の手のひらを折れんばかりに握る。
できるだけ優雅にスカートをつまみ上げる。
風変わりなテストを出す先生で有名だった。
今回も頭を悩ませる問題が出た。
『I love youを訳しなさい』という問いに手が止まる。
『愛している』と思うほどの相手に会ったことはない。
それに単純に『愛している』と回答したらバツを貰うような気がする。
国語のテストじゃあるまいし溜息をつく。
青年が新聞を読んでいると美味しい匂いが漂ってきた。
「お待たせしました」と少女は笑った。
テーブルに朝食を並べていく。
独りきりで食べていたものと全く違うメニューだ。
「いただきます」と味噌汁をすする。
「美味しいな」率直に言うと「ハートがこもっていますから」と少女は照れる。
目には見えないけれども確かにそれはあった。
木々を揺らして香りを届ける。
君の長い髪をさらさらとさらっていく。
ささやかな変化をもたらすもの。
僕は思わず深呼吸をしてしまった。
そんな僕の頬を撫でていった。
昨日よりも少しだけ冷たい風に季節の移り変わりを感じた。
僕は目を細めてそれを見送った。
君がいなくても、自分のことぐらい自分でできるよ。
君は心配性だな。
それとも僕には不安にさせる何かがあるのかな。
君はいつも僕のことばかり心配する。
たまには自分の心配をしたらどうだい。
僕から離れて君は君自身のことを思うのは大切な時間だよ。
だから安心して君は自分を大切にするんだ。
夜空の下、欲望の限り唇をむさぼりあった。
それはもう過去のことだ。
君と僕の間には冷え切った空気があった。
毎夜、同じ夜空がないように、同じ時間はない。
もう過去のように戻れないのだろうか。
沈黙に花を咲かせる足音を聞きながら、僕の胸が痛む。
赤く塗られた唇がまるで誘惑するようだ。