自分にはできないことが多すぎて、それでも誰かのためになりたくって、必死に「自分」にできることを探した。
たくさんの人に訊いてみた。
たくさんの人の話を聴いてみた。
たくさんの人の流した涙を見た。
たくさんの人の喜ぶ顔を見た。
それでも「自分」にできることが見つからなかった。
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地球の裏側にいる人の悲しみを知っても、「自分」の隣にいる人の辛さを知っても、「自分」は何もできなかった。
ただそこにいるだけ。
「自分」だけができることは、探しても捜しても見つからなかった。
そんなものは、本当は存在しないんじゃないか。と思って、思って、思ってみたけれど
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諦められない。
「誰かのために、自分しかできないことをしたい」と思う気持ちは、日増しに増えていき、自分の体いっぱいまで感情は膨らんでいき――。
パチンっ。
ある日、それは弾けとんだ。
殻を壊して、広がった。自分の目の前に現れたのは、醜悪で、酷い匂いがした。それはエゴ。
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自分の中にいた「善意」は、ありとあらゆる生き物を煮詰めて腐敗させたような匂いを撒き散らしながら、ルールを無視した奇怪な形をして、不安定に揺れていた。全てを飲みつくしてもまだ足りないと、伸び縮みをくりかえしている。
「善意」はそんなふうに存在していた。
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それは「自分」。
涙がぼたぼた零れた。
なんて自分は醜いのだろうか。
なんて自分は愚かなのだろうか。
なんて自分は――哀しいのだろうか。
「自分」の身から生まれ出でた「善意」を嫌うことはできても、憎むことはできなかった。
だから、手を差し伸べる。
「さあ、やりなおそう」
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顔も姿も想像できない「誰か」のためじゃなく。よく知っている人たちのために。
「自分」にしかできないことじゃなくって、誰でもできることを。
そんな小さいことを、ひとつずつ。ひとつずつ。
今まで支えられてきた分だけ、感謝は返しきれるものじゃないけれど、それでも“返したい”
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感謝されたかったんじゃない。
「ありがとう」って言うだけじゃ、感じた想いに足りなかったから、「自分」にできることを探していたんだ。
とても、とても、とても嬉しかったんだ。
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