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「 引用RT 」
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『上手に朝になれず布団のなかで』

朝がやってきたのは、窓からの気配で分かっていた。
けれども、体を起こすのが難しく、横たわったまま目を開ける。
揺れるカーテンに金の光。
上手に朝になれずに布団のなかで、それを見つめていた。
今日も変わらずに朝がやってきたのだ、とためいきをつく。
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『知らない神祟り』

人々は集会に集まると報告話をした。
そのほとんどが最近の天気についてだった。
田畑の実りが芳しくない。このままでは、来年に撒く種に手をつけかねない。
雨の量も少なく、代わりに酒を呑む。
知らない間に神に祟られていたのだろうか。
人々は白すぎる雲を見上げて祈る。
『神話が噂話だった頃。』

神話が噂話だった頃。
季節は常春で、人々は飢えることを知らなかった。
もぎった果実で腹を満たし、青空を見上げては、噂話をしていた。
人と神の距離は近く、まるで隣の家の芝生を見るようなものだった。
だから、人と神との間に子が生まれるのも当たり前だった。
『月も終わったってことか』

夜空から星々が次々に消えていった。
朝になったわけじゃない。依然と常闇が広がっていた。
やがて月も少しずつ欠けていった。
「月も終わったってことか」と男は呟いた。
冷たい風の中、コートをはためかせながら、男は終わりゆく月を見つめ続けた。その果てを。
『惜別ユートピア』

楽園から追われ、夢想したユートピア。
存在するはずのない惜別ユートピアに手を振る。
苦い味はしなかった。ただ塩辛い風が頬を撫でていった。
罪の果実をお互いに食べあって、追い出された先に見た夢のような世界だった。
そことも別れの季節が来たのだと風が知らせた。
『彼岸花と鬼』

客が来たら必ず通す部屋があった。
目の前にお茶を置かれた客は「これは見事な屏風ですな」と褒めたたえた。
赤い彼岸花が咲き乱れる中、赤い血に染まった鬼が描かれている。
よくある主題かもしれないが、どんな客に見せても同じ反応をする。
この絵を描いた画家はもういない。
『ぼくの物語には隙がある』

ぼくはぼくの物語を歩いていた。
最初は両親に囲まれて、それから兄弟と、その後は友だちと。そして君と。
ぼくはぼくの物語に満足していていた、あの日まで。
ぼくの物語には隙がある。
隙間風のように冷たい風が吹く。
一生懸命、隙を埋めたけれども元通りになる。
『結局僕の人生の主役は僕だった』

僕はスポットライトが当たらない端役だと思っていた。
名前すらない通行人Aだと思っていた。
それなのにどうだろうか。人生が終わる瞬間、泣き出しそうに人々に囲まれている。
結局僕の人生の主役は僕だった。それに気がつけただけでも、幸せで嬉しかった。
『からむ季節をほどいていた』

君と出会った春が懐かしかった。
生命が歌うように輝きに満ちていて君の笑顔が眩しかった。
それから、どれぐらいの時間が流れていっただろう。
僕は気がつけば、からむ季節をほどいていた。
また君とやりなおせるように、もつれ、からまった季節をほどいていた。
『冬に君はいない』

凍えるような冬に君はいない。
全ての命が歌うように目覚めの季節にしか君の姿を見ることができない。
枝についた固い蕾を見ながら、君のことを思った。
早く凍るような冬が終わればいいのに。
たとえ君が散っても、葉が残る。
青々とした葉を見て君を思い返すことができる。
『夜に抱けぬものなし』

夜はどんなものも包みこむ。
悲しみも、苦しみも、喜びも、楽しみも。
全部を包みこんで、眠りへと誘う。
夜に抱けぬものなしだった。
膝を抱えている少年も、涙跡が頬についた乙女も、付き合いで呑んでいる夫も、苛立ちながら帰りを待っている妻も。
夜は抱きしめる。
『初入社日の入り口の先はギルドだった件』

スーツを着て、皮の鞄を持って、革靴を履いて、社会人一年生らしく電車に乗った。
似たり寄ったりの服装の人を見ると、少しばかり安心した。
これから始まる出来事に、不安半分、期待半分だった。
初入社日、地図通りにつくと入り口はギルドだった。
『要らなくなった話』

姉に甥っ子の面倒を見てくれないか、と依頼された。
ちょうど暇な日曜日だったから引き受けた。
久しぶりに出会った甥っ子は、想像以上に大きくなっていた。
「好きな子いる?」と甥っ子は尋ねてきた。
別れたばかりの身には辛い話だった。
要らなくなった話しかできない。
『殺意を描く』

彼女のキャンバスは死んだ色が塗りたくられていた。
何を描いているのか分からない。
ただ色という色が氾濫していた。
まるでそれは、殺意を描くようだった。
己の心を殺し、色をキャンバスに叩きつける。
それのくりかえしでできた作品は、誰もが立ち止まるような出来上がりだ。
『自由なき殺人』

殺す相手は決まっている。
自分の手を汚したくない連中が、どっさりと依頼をしてくるのだ。
殺すには忍びない子どももいた。
輝かしい未来が待っている若者もいた。
命がつきかけている老人もいた。
黙々と殺していった。
言い訳の準備のない自由なき殺人だ。
地獄行きだろう。
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