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「 140文字の物語 」
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 南瓜に人参、大根。
 カゴの中は冬至の野菜。
 今から料理して間に合うのか、そんなことを考えていると饂飩と柚子を手にした彼女が戻ってきた。
 「今日は?」僕の質問に
 「ほうとう、かな」妙な間。
 レジに足を向けると背後で叫び声。

 「キャンドルホルダー!」
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 今日の空は泣いてるみたい。
 昨夜、満月を見上げる人が多かったせいね。
 自分のものじゃなかったのが悔しくって、今日は隠しちゃったのよ。
 でも月は自分のものになってくれなかった。
 当たり前のことに気がつかなかった。
 だから悲しくなって泣いているの。
 馬鹿みたいな話でしょう。
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 今年最後の満月という感傷的な響きにかきたてられて、コートを掴んで外に出た。
 僕の想像を裏切るように、吐き出した息よりも白い月は、インクを流したような空とのコントラストが眩しかった。
 哀切の余韻すらない夜に、僕は口を閉ざした。
 天上からしんしんと寒さが降ってくる。
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 空は快晴。月齢14.3。満月かと思う月だった。
「月が綺麗だね」
 と僕が言うと、彼女はうつむいた。
 気を損ねるようなことだったかな、と彼女のつむじを見ていると
「そうだね」
 と返ってきた。
 彼女が胸に抱えていた本のタイトルが目に入る。

 『それから』。

 僕もうつむいた。
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「今年のクリスマスは幸せになれますようにって祈ってもいいかな?」

 誰に

「神様かな? もし、いるんだったら願ってもいいかな」

 いつも平気な顔で我儘を言うのに

「だって、叶わなかったら悲しいじゃないか」

 ねえ、私と一緒にいると不幸せ

「まさか!」

 じゃあ、お願いしなくても平気
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 埃が雪のように積もった部屋のテーブルに載せられた自鳴琴は独りでに鳴り出した。
 閉じこめたきり省みられなかった過去を悼むように、金属の板が弾かれて甲高い音を立てて拍子のずれたメロディを紡ぐ。
 この曲を好きだった人の唇が歌わなくなったように金属板はぷつりっと止まった。
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 言葉を重ねても、自分の殻にこもっている君の心には届かない。
 言葉は素通り。
 瞳に涙をためた君は「不安なの」と繰り返す。
 君の殻を破って責任を取る度胸のない僕は、今日も同じ言葉を繰り返す。
 何度、言葉を重ねても同じ言葉には同じ言葉しか返ってこないというのに。
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優しい嘘のつき方を教えてください。
私は、これから大切な人に嘘をつかなければいけないのです。
時間が解決してくれる未来まで持つような嘘をつかなければならないのです。
私は、真実をくるむようなオブラートのような嘘を探しています。

ご存知ありませんか?
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 人の運命を織る織女のひとり瑛絢は容貌が自慢の娘でした。
 鏡が美しく瑛絢を映すので、娘は鏡にのめりこみお役目を果たさなくなりました。
 それを聞きつけた天帝は瑛絢を完璧に映さないようにと、鏡を割っておしまいになりました。
 以来、天空にある月は欠けるようになったといいます。
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 月見の今日は『星狩り』に最適です。
 地上の人たちが満月に夢中になっている間に、お気に入りの星を手に入れましょう。
 星取り網と透水晶の瓶の用意は良いですか? 蓋も忘れずに。
 星を閉じこめた瓶に炭酸水を注いで飲むのが今年風。
 星ごとに違うそのお味を楽しんでみては?
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「探し物をしているんです」
 若者は口だけを動かして話す。
「一緒に探そうか?」
 私の提案に若者は首をカクンカクンと横に振る。
「いいえけっこうです」
 若者は再び地面を見つめ、道を歩き出す。何往復めだろうか。
「何を探しているんだい?」
 問いに若者は足を止め呟いた

 「才能」

 と。
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 僕のぺったんこの財布じゃ、君の欲しい物すべて買ってあげられない。
 「愛」を量る方法は他にもあるのかもしれないけれど、僕はこれ以外の方法を知らない。
 財布が空になったとき、君との「愛」が終わってしまう。
 僕は財布を厚くするために頑張って働いている。
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 彼女はキャンドルナイトが好きだ。
 今年は夏至だけでなく秋分の日もやるという。
 気がついたときには手遅れで僕の冷酒用のガラス杯は、ちゃっかりとキャンドルホルダーになっていた。
 僕はキャンドルに照らされた彼女の笑顔を見ながら茶碗に日本酒を注いだ。
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 陽が昇り始めた市場の片隅で、束ね髪の若い女性が膝を抱えていて座っていた。
 ポップイエローのマニキュアが施された爪先の先には、ビワの葉で染めたような布が広げられていて、大きさもまちまち、形も不揃いの「記憶」が並べれていた。

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 大通りを避けた個人販売には掘り出し物がある。
 かの『王者の夕べ』も、『黒い森の英雄譚』も、市場の片隅から発見され丹念に磨かれてから評価されたのだ。
 伝説として語り継がれるロマンを求めてコレクターは市場の隅々まで歩き、「記憶」を漁るのだった。

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 若い女性が並べていた「記憶」は、どれも非常に良く磨かれていた。
 「記憶」を研磨するのは素人でもできるが、その根気を強いられる作業に気が滅入り、仕上がりが甘くなり勝ちだ。
 芸術的価値を持たせるような磨きは期待できないものである。

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 足を止めて、話かける。
 こういった遣り取りも市場の楽しみだ。
 束ね髪の女性は、はにかんだ。
 「記憶」は恋人が語った夢を彼女が一つ一つ大切に磨いたものだという。
 オススメだという「記憶」を手に取ってみた。
 水鳥の羽のように軽く、炭酸水のように軽やかな音がした。

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「売ってしまって良いのかな? 二度と手に入らないよ」
 と念押ししたのは、女性が世慣れていない印象だったからだろう。
「彼はいつも夢ばかり話しているんです。
 だから、大丈夫です。
 もう新しい夢に飛びついているから」
「でも、君が困るんじゃないのかな」

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 少女と呼んでも良いような若い女性は、大きな瞳を輝かせた。
「彼の夢を追いかけたいから、昔の夢はいらないんです。
 彼は過去の夢を振り返らないから、私が持っていても意味がなくなっちゃって。
 二度と見ない夢なら、すっかり売ってしまって、資金にしようと思って」

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 ビワの葉で染められてた布に並んでいたオススメの「記憶」は今、ランプの隣に置かれている。
 オレンジ色の灯りを受けて、「記憶」は小鳥のように明るく、絶え間なく歌い続けた、……一晩中。
 そして、夜明けに甲高い声を上げて砕け散った。

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 少々の感慨を持って、小さな欠片になった「記憶」を拾い集め、オイルの入った小瓶に入れた。
 万華鏡のセルになった「記憶」は歌うことはなくなったが、華やかな狂乱を鏡の中で演じ続けている。――これがその万華鏡にまつわる物語。
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 市場では様々な物が売られている。
 最も人気で最も品数が多いのは「記憶」だ。
 誰でも簡単に用意できるし、同じ物が二つとして存在しない。
 元手がかからず、コレクターのおかげで売れ残るという心配もない。
 その手軽さから市場デビューに最適なアイテムとして雑誌で特集されているほどだ。

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 大人気の「記憶」だが、最近は盗品も多い。
 代理販売が多い市場だけに、買った「記憶」が正規のルートのものか、どうか、の判断は難しい。
 不幸の「記憶」が安値だった場合、疑う必要がある。
 もっとも、手元に置きたくないから二束三文で売り払う人物もいるので一概には言えない。

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 「記憶」を財布に優しく、安全に楽しむなら、眠っているときに見るほうの「夢」が良い。
 毎晩、生産されるものだから供給も安定しているし、万が一、盗品だった場合も心が痛まない。
 「夢」を100個失ったとしても、性格が変わることはない。

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 「記憶」は手にとってその感触を楽しむのも良いし、耳にあて音色を聴くのも良いし、ちょっとしたインテリアとして棚の上に飾るのも良い。
 標本のようにガラスケースに並べるのも良いし、ペーパーウェイトのようにテーブルに置くのも良い。

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 鑑賞するだけでは物足りなくなったら、加工するという選択がある。
 原石にはない輝きが生まれ、新しい魅力に気がつくだろう。
 「記憶」の加工方法は星の数ほど存在するが、一定の人気を得ているのは万華鏡だろう。

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 万華鏡の楽しみはセル作りだ。
 もちろん磨いただけの「記憶」を万華鏡のセルにすることもできるし、「記憶」を損ねないからビギナーにもお勧めだ。
 大きくなりがちなのが欠点だが、筒にこだわることができるから、楽しみの広がりは無限大だ。

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 「記憶」を砕き、ガラスの小瓶に入れる。
 特殊なオイルのなかで舞う「記憶」はそれだけでも美しく、サイズの揃った小瓶が並んでいるのも華やかな魅力がある。
 気に入った小瓶をセットして筒で覗く。
 万華鏡になった「記憶」は、それまでにはない魅力に溢れている。
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