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「 140文字の物語 」
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 8時28分ホームルーム間近の教室の俺の机の上は自称異世界人に占拠されていた。
 どよめく教室もなんのその、見た目だけは愛らしいそいつは俺の平穏を打ち砕くために口を開くのだ。
「あなたと私は運命共同体! 喜びなさい地平人」
 何故、日本語なのだろうかと尋ねてはいけない。それがやつらのやり方なのだ。
「シティセスめ! ――くんが貴様の契約を受けるいれると思っているの!?」
 何故か俺の隣の席の女子生徒が叫びだしたが、やはり無視。春になると出てくるのは虫だけではない。
 それに彼女はもともとそういった性格だった。
 あれはまだ俺が5歳だった頃まで遡る……暇はないので、省略。
 自称異世界人と敵対しているらしい女子生徒の会話は絶好調だ。
 俺は自分の座席に座りたいだけなんだが、割って入るのも憚られる。
 女性の会話に割り込んで無傷にいられるのはイケメンと先生だけだろう。残念ながら俺はどちらにも該当しない。
「――、机に座っている女性は君の知り合いか?」
 いつの間にか教室に入っていた担任が笑顔で俺に尋ねてきた。
「いいえ、赤の他人です」
 俺は答えた。
 言い終わる前に、自称異世界人と隣の席の女子が怒鳴り始めた。
 俺の弁解は担任には届かなかったようだ。仕方がない。
「――、あとで職員室で話を聞こう」
 担任は笑顔のまま言った。
 ……俺は平穏を愛している。
 こんな日常はもう嫌だ。
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 ひたひたひた。
 裸足で歩いているような音に私は振り返った。
 そこには濃い霧に沈んだ街があるだけで、生き物の気配は一つもない。人どころか、野良猫も、烏もいない。
 自分以外の人間を捜し求めて歩いているが……嫌な予感に私は震えた。

+++

 そよと頬をなでる生暖かい風に私は驚き目を見張る。
 蝶が舞っていたのだ。
 氷細工としか思えない透明な凍て蝶が翅を振るわせ「連れてって」と囁く。
 平穏な日常であれば神秘的な光景だが、私の心臓は早鐘を鳴らす。
 早くこの街から大切なものを持って立ち去らなければ――!
 神隠しの伝説が残る上樫の清流を使用の木綿豆腐は、隣の仕切りの中にいる絹豆腐が好きだった。
 けれども想いを伝えられないまま絹の送別会がやってきてしまった。
 木綿は勇気を奮って「絹さん、ボクを愛してください!」と告白。
 絹は大爆笑。
 実は絹は笑い上戸だったのだ!
 今週号の特集記事:マテリアルの谷間に彷徨う現代人を救う。
 忘れられた夢幻の郷で貴方は本当の自分に出会う!
 ここは自分の居場所ではない、そんな気がする。
 こんな気持ちになったことはありませんか?
 今、貴方の前に宇宙樹の神秘の扉が開かれたのです!!
 必見、マナ先生の占星術!!
 ぴっかぴかのからくりのお日さまは銀の神さま依存。
 みんなが寝るのを待って最果ての工場までびゅーんっとひとっ走り。
 「おはよう」に間に合わせるために毎日メンテナンス。
 銀の神さまトンテンカン。
 お日さまを綺麗に磨くよぴっかぴか。
 だから朝のお日さまはいっとう眩しいんだよ。
-
 向かい側の大きな瞳がメニューをひとさらい、でも桜色の唇が紡ぐのはいつもと同じ。
 どんな喫茶店に入っても彼女の注文は変わらない。
 寒い日には湯気が立つホットティー、暑い日には氷が浮かんだアイスティーにミルクをひとたらし。
 「どうして?」と訊いても魔法は解けないかな?

+++

 向かい側の彼の瞳でメニューに穴が開きそう。
 新しくオープンしたカフェで、悩んで悩んでアメリカン。
 次こそ違うのを注文しようと笑うけど、そのセリフ何回目?
 ミルクティーを頼んだ私と貴方はきっと似たもの同士。
 最初に決めたルールに囚われてる。
 魔法の言葉が必要みたい。
-
 君はデジタル時計とにらめっこ。

「それ20分遅れてるんだ」
 僕は携帯電話を見ながら呟いた。

「え、嘘!?」
 ハンドバックを逆さに振るって落ちてきた携帯電話を拾う君。

「嘘だよ」

「今年は絶対に勝つつもりだったのに!!」
 君が言う。

 知ってるよ、30分前から君の横顔を見ていたから
-
 自分にはできないことが多すぎて、それでも誰かのためになりたくって、必死に「自分」にできることを探した。
 たくさんの人に訊いてみた。
 たくさんの人の話を聴いてみた。
 たくさんの人の流した涙を見た。
 たくさんの人の喜ぶ顔を見た。
 それでも「自分」にできることが見つからなかった。

+++

 地球の裏側にいる人の悲しみを知っても、「自分」の隣にいる人の辛さを知っても、「自分」は何もできなかった。
 ただそこにいるだけ。
 「自分」だけができることは、探しても捜しても見つからなかった。
 そんなものは、本当は存在しないんじゃないか。と思って、思って、思ってみたけれど

+++

 諦められない。
 「誰かのために、自分しかできないことをしたい」と思う気持ちは、日増しに増えていき、自分の体いっぱいまで感情は膨らんでいき――。

 パチンっ。

 ある日、それは弾けとんだ。
 殻を壊して、広がった。自分の目の前に現れたのは、醜悪で、酷い匂いがした。それはエゴ。

+++

 自分の中にいた「善意」は、ありとあらゆる生き物を煮詰めて腐敗させたような匂いを撒き散らしながら、ルールを無視した奇怪な形をして、不安定に揺れていた。全てを飲みつくしてもまだ足りないと、伸び縮みをくりかえしている。
 「善意」はそんなふうに存在していた。

+++

 それは「自分」。
 涙がぼたぼた零れた。
 なんて自分は醜いのだろうか。
 なんて自分は愚かなのだろうか。
 なんて自分は――哀しいのだろうか。

 「自分」の身から生まれ出でた「善意」を嫌うことはできても、憎むことはできなかった。
 だから、手を差し伸べる。

「さあ、やりなおそう」

+++

 顔も姿も想像できない「誰か」のためじゃなく。よく知っている人たちのために。
 「自分」にしかできないことじゃなくって、誰でもできることを。
 そんな小さいことを、ひとつずつ。ひとつずつ。
 今まで支えられてきた分だけ、感謝は返しきれるものじゃないけれど、それでも“返したい”

+++

 感謝されたかったんじゃない。
 「ありがとう」って言うだけじゃ、感じた想いに足りなかったから、「自分」にできることを探していたんだ。

 とても、とても、とても嬉しかったんだ。
-
ねぇお願いがあるの。
私が夢に落ちるまで甘い甘い声で歌を歌って欲しいの。
誰も知らない世界の、誰も聴いたことのない言葉。
あなたの心の奥底の、まだ誰もふれたことがない泉から、湧きあがってくるささやきを。
歌にのせて。
今夜、私だけに歌って欲しいの。
-
君は無口なセイレーン。
空に浮かぶ月をあげよう。
君のきれいな髪をすく櫛にするといい。
海に沈む宝石をつなげてあげよう。
君のきれいな首に飾るといい。
だから、君よ永久に嘆きの歌を歌わないでおくれ。
-
おかしな夢を見た。
夢の中で私は夢を見ていることを知覚していた。
何もない空間、無機質な白い壁と白い床と白い天井で作られた正方形の中は、不思議な明かりで包まれていた。
ちょうど障子越しの光のように目に優しく拡散した光の中で、私はジョウロを手にしていた。

+++

鉢植えに水をやり続けていた。
私はその鉢植えの花が「永遠に」咲くことがないことを知っていながら水をやっていたのだ。
そして――そこで目が覚めた。
カーテン越しの弱々しい光に「夢か」と再確認した。
-
 初売りに賑わうデパートで、私はちょっと変わったノートを買った。
 そのノートを使えば、みんなのようにちょっと変わった物語が書けると思ったからだ。
 ビニール袋に入れてもらったノートを抱えて、私は飛ぶように家に帰り、さっそく机に向かった。
 ペン立てから愛用のボールペン取る。

 +++

 新品のちょっと変わったノートに書きあがったのは、着古した普段着のような物語。
 きっと、同じ売り場にあったちょっと変わったボールペンで書かなかったせいだろう。
 明日、デパートに買いに行こう。
 そうしたら、みんなと同じように、私にもちょっと変わった物語が書けるはずだ。
-
 何もない空欄ですら入力されたという行為ゆえにネット上では文学になるというのなら、これもまた一つの文学。

「     」

 まだ見ぬ君へ、
 書かれていないのに筆記されたと定義された5つの空白
 ――5文字分の可能性を贈る。
-
 君という理想に閉じ込められた。
 それはさながら檻のごとく。
 格子の間から手を伸ばすことはできるけれども、外には出られない。
 体の一部が出られるからこそ、外に出たいと焦がれる。
 身の内の焔で焦がされて、焦りの中で僕は焼死体になるのだろう。
 檻の中で僕はサイゴの息を吐き出した。
-
 二人分の食器でいっぱいになるテーブルに、彼女は百均のキャンドルホルダーを置いた。
 彼女の身じろぎに合わせてシャンプーの香りが鼻をくすぐる。
 蛍光灯の下じゃなくって良かった。
 耳まで熱くなっている、エアコンのスイッチは切ったのはずなのに。
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